自分の実家は、少なくとも4代は続いている東京オリジン。祖父は大工で、隣の家の人と、壁の隙間から会話するような、中央区の長屋に住んでいた。まさに落語の世界だが、実際に一族みんな落語が大好きで、今考えると「落語かよ!」とツッコミたくなるような祖父の思い出もいろいろある。

 例えば、祖父は大工を引退したあとも、今で言うDIYリフォームが趣味。どっからか廃材をもらってきては、隙間だらけの長屋を自分の手で改造した。子供心に一番驚いたのは、ある日おじいちゃんの家に行くと、茶の間の引き戸が、真っ白いドアに新調されていたこと。しかもよく見ると「検眼室」という文字と、目玉の絵が描いてあるんですけど。祖父がどっかの眼科の解体現場からもらってきたのを、取り付けたらしい。

実は隠れ落語ファンだったおじさん上司と女性部下がツーショットで落語会に、なんて話もよくあるそうで。(©PaylessImages-123RF)

先祖は落語にも出てくる“立派な”質屋

 子どもの頃から繰り返し聞かされてきた、落語にまつわる一族の自慢話もある。
「今は大工だけど、うちはもともと江島屋っていう、落語にも出てくるほど立派な質屋を営んでいたんだから」

 そうか、自分も世が世なら、大店の質屋のお嬢さんだったんだ…そう信じて大人になったある日、ふとどんな落語に出てくるのか、調べてみて青くなった。その落語「江島屋騒動」はバリバリの怪談話で、笑うところがほとんどない。しかも劇中、江島屋はとんでもない悪徳質屋として登場する。うろ覚えだが、ストーリーはざっとこうだ。

 貧しい家の娘が、名家のボンボンに見初められて、結婚することになる。娘は母と江戸に出て支度金で婚礼支度を整えるが、婚礼衣装を江島屋で買ったのが運の尽きだった。客の足元を見て、糊で貼り付けただけの粗悪な着物を売りつけたため、婚礼中に新婦の婚礼衣装の裾が取れてしまう。恥をかかされたと新郎のボンボンは怒り、たちまち破談に。娘は悪徳質屋の江島屋を恨みながら自害する。

「末の代まで呪ってやる…」

 って、私じゃん? ていうか、着物がほつれたくらいで破談にするボンボンもボンボンだ。半分くらいはそっちも恨んでもいいと思うのだが、とにかく。残された母も江島屋を恨み続け、わら人形みたいなことをして、とうとう江島屋はつぶれてしまう…とまあ、そんな落語だったと思う。

 まあ、怪談だけにフィクションだし、モデルがあったとしても、たまたま同じ名前の別の質屋だった可能性だってある。なのに悪徳業者として登場するところも省略して、ちゃっかり「落語にも出てくる立派な質屋」と末代に伝えてしまう。自分の祖先の大ざっぱさと、ネットのなかった時代の口伝のいい加減さを、今改めてかみしめている。