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 ただ、逆に言うとハーバードに受かった人間が、言語の壁がなくても東大の数学の問題や歴史の論述の問題が解けるかというとかなり疑問が残る。

 確かにハーバード大学は中退率が3%で全米平均が50%と言われる中ではセレクションがうまくいっている大学と言える。

 ただ、東大に合格した後でハーバードにいった学生や、東大を出てハーバードの大学院に進学した留学生が、中退した話は、私の知る限り聞いたことはないし、学業についていけなかったという話も聞いたことはない。私自身米国のランキングで一位になっていた精神病院の付属のポストグラデュエイトスクール(博士課程を終えた者の学校)で、講義やディスカッションで苦労したことはなかった。

 茂木氏が脳科学者として活躍できるのも、東大の理系の入試に合格し、文系の学部でも学んだことによる類まれなる理解力の賜物かもしれない。

 ついでにいうと、米国人はこれまで300個以上のノーベル賞を受賞している。荒く計算すると、人口100万人当たりで1個の割合で受賞していることになる。現在、米国にいる日系人は約150万人なので、これまで1~2個程度受賞していてもおかしくはない。だが日本人の遺伝子を100%受け継ぐ日系人で、米国で初等中等教育を受け、米国の大学に入った人はまだ誰もノーベル賞を受賞していない。一方で日本で初等中等教育を受け、日本の大学に入った日本人は多数ノーベル賞を受賞している。以上のことを考えれば、日本の大学受験までの教育制度は米国より劣っているとは言えない。

 ただし大学や大学院での高等教育については日本は米国より劣っていると思われる。日本人のノーベル賞受賞者は、日本の大学に入った後に、米国に留学した者が多いことがその左証だ。米国と比べて日本の大学受験までの教育制度は遜色はないものの、大学に入った後の高等教育については、天才を生み出す力が弱いと言えるのではないか。

AI時代の入試改革を

 AIの時代になり、入試改革の必要性を議論する必要はあるだろうが、多くの国で、そういうことはほとんど行われていない。自動翻訳機の普及で会話レベルの翻訳はすでに実用化されているのに、読み書き能力(これだってアジアで最低レベルだ)を犠牲にしてまでリスニング力を共通テストの半分も占めるようなテストに改訂するのも、むしろ時代遅れの可能性もある。

 入試を改革しなければいけないという強迫観念に基づいて、教育現場や産業界からの意見も十分に聞かず性急な入試改革を進めるより、よりましな入試とはどういうものかの議論をもっと真剣にやらないと、旧来型の学力の高い、韓国や中国との競争にサバイバルできないというのが杞憂であってほしい。