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 エリクソンは、アメリカインディアンの子育ての研究でも知られる。インディアンは、広い米国大陸の中で互いにほとんど交流なく暮らしているので、部族によって文化が大きく違う。子育てもしかりで、石で殴るなど虐待同然の子育てをしている部族もあれば、6歳までオッパイを吸わせるような甘やかしの部族もある。

 精神分析学者であるエリクソンは、そんな子育てでは子供がおかしくなると心配するのだが、意外に精神的に健全に育つのだ。ところが、白人が入ってきて、「そんな子育てをしていると子供がおかしくなる」と批判すると、本当に精神に障害をきたす子供が増えてくる。そこでエリクソンは、子育てが正しいかどうかより、親が自分の子育てを信じられることの方が大切だと気づく。

 そんな折に、世界最初の科学的育児書とされるスポック博士の著書の冒頭にtrust yourselfとあるのにエリクソンは気づく。科学的な育児書であっても、それを盲信するのでなく、親がまず自分を信じることが大切なのだとスポック博士がわかっていた。

 この話に私は感動した。以来、この言葉が座右の銘となったわけだ。

「神の舌」を持つ男

 さて、自分を信じることで成功者になった人というと思い浮かぶのが、ロバート・パーカーJrというワイン評論家だ。

 ただのワイン好きの弁護士だったパーカーは、弁護士になって2年目にやっと稼げるようになったというので、弁護士仲間で高いワインを飲む会を開く。

 そこで違うビンテージのシャトー・マルゴーという1級シャトーのワインを生まれて初めて飲むのだが、みんなが黙りこくってしまう。

 ここでパーカーは口を開いた。「お前たちの言いたいことはわかるよ。まずいだろ」と。

 それまで米国の口当たりのいいワインを飲み続けてきた弁護士仲間もパーカーも、はずれ年だったことや口当たりを重視していないことが重なって、マルゴーがまずく感じられた。でも、それをいうと自分が味音痴と思われるのを恐れて言いだせないのをパーカーは代弁した。

 そして、自分の舌を信じたパーカーは、自分がおいしいと感じるワインは、米国の一般人も美味しいと感じるはずだと考えて、ワイン評論を始める。それが大ヒットしたのだが、さらに70年代のボルドーワインが不作な上、80年、81年も不作で、82年のワインをフランスの評論家が相手にしなかったのに、パーカーが最初にすごいと言った。これが当たってパーカーは神の舌をもつ男といわれるようになった。

 私もこれにあやかって、自分がおいしいと思うワインを振る舞うようにしたら林真理子先生その他、ワイン友達がずいぶんできた。自分を信じることの勝利と思っている。