解決できることは忘れてはいけない

 ただ、精神科医の立場として言えば、日本が拉致問題にこだわるのは適応的(そのほうが状態がよくなること)だが、韓国が従軍慰安婦問題にこだわるのはあまり適応的と言えない。

 森田療法という日本発祥の国際的にも高い評価を受ける心の治療法では、変えられないことを悩むのは神経症的で、変えられることを悩むのが建設的だとされる。

 顔が赤いことを悩む人がいれば、自力で変えられない顔が赤いことを悩むより、変えられる人との付き合い方に悩むように仕向けて、顔が赤くても人に好かれるようになることに注意を向けさせる。

 要するに解決できること、変えられることにはこだわり、変えられない過去にはこだわるべきでないと伝えることもある。

 まだ生きている可能性が高いし、解決の可能性が残されている以上、拉致問題を忘れてはならないし、それを世に訴えるのは当然適応的だ。

 韓国による慰安婦問題の取り組みも、もっと賠償を求めるためにやっているのかもしれないが、後述するように変えられない過去を悩んだり恨み続けたりするのは、メンタルヘルスに悪いとされている。

 実は、日本でこれからの事態を変えるために忘れてはならないことなのに、ほとんどの人が忘れている問題がある。

 それは李承晩ライン事件だ。

 当時の韓国大統領である李承晩が、1952年1月18日に勝手に海洋境界線を設定し、その中に入った漁船328隻を拿捕、3929人を拘束、そして44人を死亡(ほとんどが殴り殺されたような形だった)させたという事件だ。

 アメリカはこの境界線を認めなかったし、拘束された者は、死ななかった人も6畳ほどの板の間に30人も押し込まれ、30人で1日に桶1杯の水が支給されただけという国際法上の捕虜虐待に当たるひどい仕打ちだった。

 なぜこれを忘れてはいけないかというと、竹島は現在進行形で韓国が実効支配をしているが、これを変えることができる可能性が残されているからだ。

 従軍慰安婦問題で日本が「きちんと対価を払っていたし、その証拠もある」「軍の強制はなかった」と反論しても、現行の国際世論では「金を払っていたらいいというのか」「軍の強制がなくても性虐待だ」と世界中の人(とくに女性擁護団体)から言われるのが落ちだろう。しかし、44人の尊い命を奪われた日本の遺族が国際世論に強く訴え続ければ、あるいは4000人の被害者の方々がどんな仕打ちを受けたかの証言をすれば、竹島の不当支配を国際社会に知らしめることはできるかもしれない。

 韓国は、ここでも大新聞に意見広告を出し続けるなど莫大な宣伝費をかけ、トランプ訪韓時にも「独島エビ」なるもの(おいしいらしいが日本の漁船が獲れない状態が続いている)を振る舞ったそうだが、日本も過去を忘れない姿勢を示して、ちゃんと金をかけて世界的にプロパガンダをやらないと失うものは大きい。