ただ、この手の能力は、意識して、トレーニングしていれば年をとってからも身に着けられる。逆にいうとそれができない人が多いので、できるだけで相当に頭がいいとみなされる。

 東大では知識を疑い、加工する方法を教えることが少ないから、外山先生の本が東大で売れるのだろう。大学で教えてくれないなら、その手の本を読んで、「思考」の習慣をつけている。あるいは、外山先生も実践しておられるように知的な人と、知識のひけらかし合いでない建設的な会話ができれば、知識を疑ったり、加工して新たなものを生み出す能力は高まるはずだ。

勉強しないで脳の老化を予防する

 このように、読書をすることや資格をとることで満足するのでなく、自分の知識や体験を上手にアウトプットしたり、それを加工することが、中高年以降の重要な勉強だと私は信じるようになった。

 みんなが知っていることより、人とは違うかもしれないが、自分自身の考えを持ったり、ただ、知識を入力するのでなく、人に話せるレベルにまで知識を理解し、かみくだくようにするというようなことだ。

 読書自体は否定しないが、新しいことを知れたとか、定説を知れたということで満足するのでなく、知識の幅を広げることで思考の幅が広がる、つまり一つの説だけで満足するのでなく、いろいろな説を読んで、世の中には多様な考え方があるし、先々どう答えが変わるかわからないというようなスタンスを持ちたい。

 特に要注意なのは、特定の著者や学説のファンになって、それしか読まなくなることだ。気分はいいだろうし、知識も増えた気がするかもしれないが、これでは前頭葉は恐らく活性化しない。右派の考えを持つ人なら左寄りの本を、左の人なら右の雑誌をという形で、いろいろと反論が思いつくような読書をした方がよほど前頭葉には刺激的だ。

 このように前頭葉を刺激するような、勉強しない勉強、つまり知識を入れるより、自分の知識を加工、応用する勉強をすることは、前頭葉の老化予防になるだけでなく、その機能水準も上げていくはずだ。日本人の場合、大学で前頭葉を使う教育をろくにせず、企業でも前例踏襲が珍しくないので、元々の前頭葉機能が低い人が少なくないように思われる。ただ脳の予備力を考えると、トレーニングですぐ上がるはずだ。

 前頭葉機能が向上すると、意欲が高まる。前頭葉を若く保つことが体や脳のほかの部分を若く保つことにつながる。

 アウトプットについては、現在の方がはるかに有利だ。昔は自費出版で一冊の本を出すのも費用も含めて大変だったが、今は自分の言いたいことや、経験や知識をわかりやすくまとめてアウトプットするのに、インターネット空間はいくらでも使える(うつ病の体験をまとめてブログにしてサラリーマン時代の年収の3倍になった人もいるという)。賢い仲間を探すSNS(ソーシャルメディア)も豊富だ。

 炎上を怖がる人が多いが、私の見るところ、自分の偏見や自分の学んだ知識に凝り固まった人、つまり前頭葉機能の低い人が批判の声を上げているようだ。むしろ、そういう人の感情を刺激するほど自分の考えが斬新だったと誇っていい。

 この手の勉強しない勉強のテクニックについては、拙著『60歳からの勉強法』(勉強しない勉強法というタイトルで出したかったが出版社が脳の老化予防を強調してこのタイトルに変えられてしまった)を参照されたい。