成長できる人間になる

 多重知能のどのジャンルで頭が良くなるにせよ、社会的に成功できるような頭の良さを身につけるにせよ、私が重要だと考えるのは、その能力を少しずつでも高めていくような人生でありたいということと、それをふいにするような「人間の頭を悪くする」落とし穴に陥らないことだ。

 感情のコントロール能力が必要なのは、かっとなってトラブルを起こすのを回避するだけでなく、人間というのは不安なときには判断を誤ることが珍しくないし、気分が落ち込んでいるときは悲観的な判断をしがちだからだ。自分の判断が普段と違ったものでないかという自己モニター(これは自分の認知パターンを認知するので「メタ認知」と呼ばれる)や、他人から見て普段と違っていないかを聞くモニタリングを行うことが重要だろう。

 現代の認知科学では、思考パターンによって感情に振り回されやすいかどうかの傾向が大きな影響を受けるとされる。例えば、「二分割思考」をする人は、味方でなければ敵、正解でなければ間違いというような判断をする。すると、味方と思っていた人がちょっと自分の批判をすると敵になったと考えて、怒り感情や不安感情が高まりやすい。あるいは、自分が正解と思っている解答以外の解答を出されると、それをろくに検討しないで却下ということになりかねない。

 また、「かくあるべし思考」の強い人は、自分がかくあるべしの通りに動けなければパニックになったり、ひどく落ち込んだりしやすいし、他人がそうでないときには怒り感情が高まりやすい。

 「それもあり」「正解は一つと限らない」と思える柔軟な思考パターンが身につくだけで、心理的な余裕が生まれ、より妥当な判断につながりやすいはずだ。

 自分の頭を良くするためにもう一つ、私が大切だと考えるのは、昨日より今日、今日より明日のほうが賢くなりたいという成長欲求だろう。歳をとると「もうこれ以上、勉強はいいだろう」とか、「だんだん脳が衰えてきた」と思うかもしれないが、それでも心がけ次第では賢くなれる。

 失敗学を提唱する畑村洋太郎 東大名誉教授に言わせると、失敗は放置しておくと同じ失敗のもとにしかならないが、それを分析反省すれば、二度と同じ失敗はしないし、失敗から学べる。私もこの考え方に同意する。人生経験を重ねることで、失敗を何度もするだろうが、それを二度としなくなるだけで、それだけ成長したと言えるはずだ。

 世の中が不確実なものになってくるにつれ、やってみないと答えが出ないことが増えていくだろう。そういった環境においても、試すアイデア(知識)が豊富で、実際に試す実行力があり、仮に失敗してもまた新たなアイデアを試してみようと思える精神力があれば、いつかは成功できる可能性がかなり高くなる。私は、この知識と実行力と精神力のセットを知的体力と呼んでいるが、歳をとっても試し続けることができたら、成功はともかくとして、新たな発見には常に出会えることだろう。

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