ホルモン医学からみた政治家に向くタイプとは?
弱者救済意欲と社交性を高める男性ホルモン、日本人は欠乏気味か
政治家、特に女性政治家の不倫が次々と報じられ、期待される政治家だった人たちのために失望感や批判が強い。
「週刊新潮」の7月27日発売号で、自民党の今井絵理子参院議員が同党の神戸市議と不倫関係にあると報じられた。新幹線の車内で手をつなぎながら眠る写真や、2人が同じホテルを出た後、同じタクシーに乗り込んだ動画も公開された。両人とも不倫を否定しているが、不自然に感じる人が多いのは確かだろう。
「週刊新潮」の7月27日発売号で、不倫関係があると報じられた自民党の今井絵理子参院議員。写真は2016年参院選での当選時のもの。(写真=アフロ)
続いて9月7日の「週刊文春」では、民進党の幹事長に内定を噂された山尾志桜里・元政調会長が、テレビコメンテーターなどを務める有名弁護士と、都内のホテルに時間差で入る様子を写真付きで報じた。ホテルには一人で泊ったという釈明会見に週刊文春が反発し、泊まった部屋がダブルルームで、スペースの大半をダブルベッドで占めていることや、2人が翌朝5時までそのホテルの部屋に滞在していることを確認していると第二弾報道を行った。
議員の不倫はモラルだけの問題か
私自身も大人の男性として、2人の議員の不倫は限りなく疑わしいと思っているが、本稿の目的はその断罪にはない。アンチエイジングを専門とする医師として、この性欲の強さが彼女たちの政治家としての資質にどう関わるのかを論じてみたかったのだ。
この2人の政治家に共通する点は、弱者の味方として人気を博した点である。
もともと人気歌手であったが、聴覚障害を持つ息子を抱えながらシングルマザーになった今井氏は、やがて全国各地のろう学校、特別支援学校や福祉イベントで講演、ミニコンサートを行うなど精力的に活動し、ライフワークとするようになった。その様子はしばしばドキュメンタリー番組で報じられ、さらに「みんなの手話」というNHKの番組の司会者にも起用された。それに目をつけた自民党に出馬要請され、参議院議員となった。
一方の山尾氏は、「保育園落ちた日本死ね」という匿名ブログを取り上げ、安倍首相に待機児童問題を追及して、一躍、民進党きっての人気者になった。
こういういきさつがあって、有権者の失望感も高まっているし、国民をだましたとか、本性が出たとか、あるいは、これまでの生き方が偽善であったというような形での糾弾の声が高まっている。
しかし、ホルモン医学の立場から見ると、この手の弱者の味方の人が性欲が強いのは何の不思議もなく、むしろ自然なことなのだ。
男性ホルモンの知られざる働き
たまたま、アンチエイジングをやっている別の医者と飲む機会があった。
彼は男性ホルモンの積極治療論者で、意欲だけでなく、判断力や記憶力などの認知機能も上がるから、日本人の中高年の人はもっと積極的に補充すべきと論じていた。実際、儲けの多いトレーダーほど男性ホルモン値が高いというロンドンでの研究もある。
もちろん、これは女性にも有効で、女性の経営者たちの中には男性ホルモン治療で、バリバリ仕事ができるようになった人もいるという。
たまたま他の女性経営者もその飲み会に参加していたので、「凶暴になったりしないのか?」という質問も出たが、「中高年以上だとないと思います。少なくとも私の経験では」という回答だった。実は、私もフランスのアンチエイジングの権威、クロード・ショーシャ先生の指導の下で男性ホルモン治療を行っているが、攻撃性が増したケースは経験していない。
「一つだけ問題があるとすれば…性欲が増してしまうんだよね。男性以上に女性は」
私は、現時点では女性に男性ホルモン補充治療を行ったことはないが、たぶん、当たっているのだろう。だとすると、補充を受けていないにしても、今井氏や山尾氏が男性ホルモン(実は、女性にも男性ホルモンは存在する)の血中濃度が高い可能性がある。
男性ホルモンというと、性欲や攻撃性、あるいは意欲をつかさどるホルモンと思われている。これが不足すると激しい意欲低下が起こって、うつ病のようになる。いわゆる男性更年期障害、現在は、加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)といわれるものだ。漫画家の故はらたいら氏がかかっていたことを告白して一躍話題になった。
しかし、最近の研究ではそれだけではないことが分かってきた。
2012年に世界的に権威のある学術雑誌「Nature」に掲載された研究によると、女性にテストステロンを投与すると、ボランティア活動や恵まれない人への寄付の気持ちが高まるという結果が出された。
要するに男性ホルモンの値が高く、性欲が強い人のほうが、ボランティアや弱者を助ける気持ちが強いことが分かったということだ。これを考えると今井議員や山尾議員が、一方では弱者のために戦い、一方では不倫(と決まったわけではないが)をしたとしても、それは矛盾ではなく、自然だということになる。
他にも、男性ホルモンは社交性を高める作用があるとされる。つまり異性と仲良くしようとするだけでなく、人付き合いもよくする。女性は年をとると男性ホルモンが増えることが明らかにされているが、そのためか社交的になる人が多い。逆に男性は年をとるほど、それが減ってくるので、引きこもりがちになる。
男性ホルモンが多い人ほど、公共心や弱者に対する配慮、意欲、社交性、判断力や記憶が良くなるなら、むしろ政治家には男性ホルモンが多い人のほうが向いていることになる。
日本は男性ホルモン欠乏社会
男性ホルモンが多いほうが良い政治家になり得るからと言って、不倫を許せというつもりでこのコラムを書いているわけではない。
ただ、日本の場合、男性更年期が疑われる人でも、ホルモン補充治療を受ける人は圧倒的な少数派であるが、本稿の趣旨からしても、男性ホルモンは中高年以降のサバイバルに必須であることを言いたかっただけだ。
男性更年期でなくても、日本人は、特に男性は、欧米の先進国の人たちに比べて、あるいは隣の中国の人と比べて、男性ホルモンが少ない可能性が高い。
世界的に見ても夫婦のセックスレスや性行為の回数が少ないことは報告され続けている。世界平均が年に103回であるのに、日本はわずか45回で中国の半分以下でもある。
2010年の統計では30~34歳の未婚男性のうち、性交経験がない人が26%。こんなにセックスをしない国は世界でも稀なのだ。
一方で、米国のシンクタンク「Pew Research Center」による国際的なアンケート調査によると、「自力で生活できない人を政府が助ける必要がない」と答える人の割合は、ほとんどの国で10%程度なのに、日本は38%、2位のアメリカが28%だから、日本がダントツで弱者に厳しいことが分かる。世界的に見てもGDPに占める生活保護費がOECD平均の3分の1レベルなのに、生活保護バッシングも起きている。アメリカは政府が助けない代わりに寄付が多いが、日本はそれがアメリカの60分の1という体たらくだ。
これがすべて男性ホルモン欠乏の影響とは言わないが、人が考えている以上に、その影響が大きいのかもしれない。弱者やアジア人に厳しいネット右翼の人間に中年童貞が多いことを「ルポ中年童貞」で中村淳彦氏が指摘しているが、これも無関係でないかもしれない。
実は、日本は男性ホルモン欠乏になりやすい素地が重なっている。ニュースワイド番組のトップニュースがすべて不倫問題になるような、過度ともいえる性道徳観。先進国で唯一ポルノが解禁されていない四角四面の政治と警察。カロリー摂取がむしろ世界最低レベルなのにやまないダイエット熱、睡眠時間の短さ、ストレスの多さ(栄養不足も睡眠不足もストレスも男性ホルモンの敵だ)。
これを脱却しないと国の活力も出ないし、弱者に厳しい現状も解決せず、その不安から貯蓄傾向に歯止めがかからず、景気も回復しないと言えば、医者の思い過ごしだろうか?
ただ、個人レベルで思い当たる人がいれば、ポルノサイトなど性をタブー視せず、肉類を十分に取り、必要な休養を取ったほうが男性ホルモンが維持されて、サバイバルにつながるのは確かなことだろう。
性的に奔放な人間を抹殺するだけでいいのか
確かに不倫の場合は、裏切られた配偶者を傷つけるわけだから断罪されても仕方がない。また、今井氏のケースはともかくとして、山尾氏の場合、どれだけスキャンダルが怖いかという前例があるのに、あまりに無防備といえる。党の浮沈がかかっていることを考えると、危機管理能力がこんなに低い人間を政治の中枢に置いていいのかという問題も残る。
ただ、本来は夫婦で話し合うべき問題を社会で袋叩きにすることや、性欲が強い人間が政治の世界に参入することをためらわせることが国益にかなうのかということも、上記の考察から考えないといけない気がする。ロシアにしてもフランスにしても、それに寛容だからアメリカに堂々とものが言える可能性だって考えられる。
私の好きな政治家に伊藤博文がいる。言わずとしれた初代内閣総理大臣で、日本に憲法を起草した中心人物であり、教育令の発布の立役者として日本の初等教育を整備し、近代日本の礎を作った人物である。
意外に知られていないが、戦争で国力を疲弊させるより通商で国を発展させるべきと考え、日露戦争の前にはロシアとの不戦を主張したし、勝っているうちに、多少の妥協をしても早期講和を進めた中心人物とされる。日韓併合にも反対の立場にあり、韓国の国力がつくまで保護国にするという考えでもあった。韓国の国力や自治力が上がることを期待して教育にも力を入れた。にもかかわらず初代韓国統監になったことが災いして暗殺されたのだが、日本にとって本当に惜しい人物だと私は評価している。
人に物をあげることが好きで、使用人にも偉そうにしないために、非常に人に慕われていたそうだが、これは男性ホルモンの高さを示唆する。芸者遊びが好きで、女性が履いて捨てるほどいるから「箒」(ほうき)と呼ばれていたそうだ。
今の時代にはもちろん許されることではないし、国の顔にすると諸外国のフェミニストからも袋叩きにされかねないが、こういう人物を国のブレーンのような形で生かす方法を考える時期が来ているのかもしれない。
ちなみに男性ホルモンの値はコンディション次第で大きく変動するとされる。日本における男性ホルモン研究の権威である順天堂大学泌尿器科の堀江重郎教授によると、男性ホルモンは「正義と公共性のホルモン」とのことだ。不倫発覚後、男性断ちをすることで男性ホルモンが減り、そのために多くの人から見て嘘としか思えないような釈明をしても平気になったとしたら、笑えない皮肉としか言いようがない。
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