要するに、頭がぼんやりしたまま残りの25年(私の年齢の平均余命)生きるのか、たとえ余命が20年と、短くなっても頭がシャキッとした状態で生きるのかを考えた際に、後者を選んだわけだ。そうした選択ができるよう、医師は投薬する前に患者に対して「血圧を正常に戻すと、寿命は延びますが、頭がぼんやりすることがありますよ」という説明があっていいはずだ。

 同様に「残りの人生、いくら好きでも塩分を控えないといけません」「甘いものを控えないといけません」「お酒をやめないといけません」という医師の指示を一方的に受け入れるのではなく、寿命が多少短くなっても好きな飲食物を我慢しない生き方があっていい。

 現状ではこのような説明は不十分で、選択肢も示さないことが多い。つまりインフォームドコンセントが尽くされないと私は考える。そんな日本の内科の実情に私は納得できないのだ。

米国並みに大規模臨床研究を盛んにすべき

 投薬を勧める医師の言葉にも注意が必要だ。

 血圧が高い患者に対して、「薬を飲んで血圧を下げないと脳卒中になる」、あるいは、「脳卒中の予防のために血圧を下げる薬を飲みましょう」という医者は珍しくないだろう。その言葉を科学的に検証したい。

 60歳以上を対象にした大規模臨床研究によると最高血圧が170ぐらいの人が降圧剤を服用しない場合の5年半以内に脳卒中になる確率は9%だった。一方で、服用した場合は5%だった。確かに脳卒中になる確率を4割程度下げるのだから、この治療は有効ということになる。

 しかし全体で見れば薬を飲まなくても5年半以内に脳卒中にならない人は9割に上る。少なくとも「薬を飲まないと脳卒中になる」という表現は間違っている。一方、降圧剤を飲んでいても5年半以内に5%の人は脳卒中を発症している。「飲めば予防できる」との説明はさすがに言い過ぎだろう。

 ついでにいうと、この調査結果は米国のもので日本のものでない。

 米国の場合は、科学的根拠(エビデンス)が示されるなどして、効果が高いと認められる医療サービスの自己負担割合を減らす医療保険制度の導入が進んでいる。これが米国で大規模臨床研究が盛んな理由の1つのようだ。

 ところが日本だと、エビデンスに基づかない医療サービスでも公的保険の自己負担割合は変わらないので、日本の研究機関が大規模臨床研究を実施する動機は乏しいように思える。

 私は欧米人のエビデンスが日本人には当てはまらないと考えている。米国や欧州の一部の国では死因のトップは心疾患であるが、日本の場合は、がんが死因のトップで、心疾患での死亡数はその半分程度だ。日本の心疾患の死亡率は、米国と比べて3割程度少ない。

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