高齢になった時のことを考えて生きる 

 もう一つ忘れてはならないのは、認知症になって、記憶や判断力などはもちろん落ちていくのだが、その人が人生経験で得た能力を生かせたり、絵画の才能などの能力が残っていたりすると、認知症になる前以上の能力を発揮することが多いということだ。

 要するに認知症になれば何もできなくなるわけではない。

 日本における認知症研究の第一人者で長谷川式簡易知能評価スケールの開発者である長谷川和夫氏が、昨年自らの認知症を告白しているが、記憶力は衰えるが、以前の自分との連続性は実感していると語っている。実際、認知症になったからといって、自分の知能や性格がすべて失われるわけでなく、そのほとんどが残っているところから徐々に能力が衰えていく。要するに十分な残存機能も少なくとも中期くらいまでは残っている。

 だからこそ、介護者もダメになった部分にだけ気を取られるのでなく、今でも使える機能にもっと目を向けるべきだろう。ちなみに長谷川氏は、これまでの経験と自分の今の症状や感じることなどを照らし合わせて、認知症についての理解を深めるための講演を続けていきたいと明言している。

 私が見るところ、認知症は本人にとっては、以前よりも主観的な幸せにつながる部分もある。

 嫌なことを忘れるとか、以前ならうじうじと気にしていたことを気にしなくなるなどだ。これはかつて赤瀬川原平氏が『老人力』という著書の中で、老人になったら身につく力として言及した能力そのものである。