農作業を続ける人は進行が遅い
実は、現在の介護保険制度が始まる前に、前述の浴風会病院のほか、数年間、茨城県鹿嶋市の病院に認知症の対応のために非常勤で勤務していたことがある。
そこで痛感したのは、浴風会の患者さんの認知症の進行が速いのに、鹿嶋市の患者さんはゆっくりだということだ。
介護保険が始まる前で、認知症へのバイアスが強く、杉並区という高級住宅地の多い地域にある浴風会の患者さんは認知症になると家族から家に閉じ込められることが多かった。現在の介護保険制度が始まる前だから、デイサービスを利用する人もほとんどいなくて、一日何もしない状態になる。そうすると進行が速いようだった。
一方、鹿嶋市の認知症患者は、外でぶらぶらしていても、近所の人が連れて帰ってきてくれる。農業や漁業に従事している人ならば、その仕事をお手伝い程度でも続けることも多い。続けていいかと聞かれた場合、私は基本的に大丈夫と答えてきた。すると、進行が遅いのだ。
現在の介護保険制度が始まってからのデイサービスにしても、あるいは、認知症の進行を遅らせるとされている薬にしても、基本的にはこのモデルに基づくものだ。認知症の高齢者にアクティビティーをさせたり、会話をしたりすることで進行を遅らせ、脳の伝達物質を増やすことで、働いていない頭を働かせているということだろう。
問題は、日本のホワイトカラー、とくに管理職経験者が年を取り、認知症になった場合、デイサービスなどを嫌がることが多いことだ。
だったら、代わりに頭を使う趣味、たとえば将棋とか麻雀、声を出す詩吟などをしてくれればいいのだが、意外に趣味をもっていない人が多い。麻雀にしても定年後相手がいないという人が多いのだ。
認知症になることを前提に考えた場合、ずっと続けられ、楽しめる(楽しくないと認知症の人は意欲が落ちているのでやらないことが多い)趣味を早めに探しておくことが賢明だ。
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