脳の病理学の立場で見ると、85歳を過ぎると誰でも軽い重いの差はあるが、アルツハイマー病だということだ。

 こう考えると、認知症も普通の老化と同じく、つまり年をとってしわがない人や、髪が薄くならない人がいないように、誰にでも起こる脳の老化であり、それにまつわる衰えと考えることができる。

 ということで、私は認知症は避けることができない病だと考えている。

認知症にならない方がラッキー

 要するに、長生きする以上、認知症に陥ることを前提で考えないといけないし、むしろそうならないほうがラッキーとしか言いようがないのだ。

 だとすると、ひたすら恐れたり、いかがわしいとしか思えないような(たまにあてになるものもあるが)認知症予防の対策をあれこれするより、認知症になったらどうなるか、どのような対策を取ればいいかを事前に知っておく必要がある。

 私も長年、老年精神医学の仕事をしているが、高齢者は年金から、高年者でなくても40歳以上の人は給料から、介護保険料が天引きされているのに、いざ認知症や要介護になるまで、その使い方を知らないという人が実に多い。

 最近は、昼間高齢者を預かり運動や学習などのアクティビティーを提供してくれるデイサービス(通所介護)だけでなく、高齢者が宿泊できるショートステイというサービスが利用しやすくなった。公的介護保険制度で要介護2以上の認定を受ければ、月のうち約20日以上のショートステイを保険適用できることもある(空きがあればという条件がつくが)。要するに制度をうまく使えば、近親者が要介護になったとしても仕事を辞めずに在宅介護がしやすくなっている。

 また、認知症の本当の症状や特徴を知らないことが、この病気に対する恐れを増幅しているとも言える。

 認知症になると支離滅裂なことを言い、徘徊したり、失禁したりで、周囲に迷惑をかけるとか、恥を晒して生きていくことになると思っている人は多い。しかしながら、認知症がある種の老化現象であることから、現実には、だんだんおとなしくなる人が多いため、病状の進行が初期や中期のほとんどの人はそれほど迷惑をかけない。末期になると確かに何もできなくなるから人の世話が必要となるが、その頃には子供の顔もわからなくなるので、誰に世話をされても本人にとっては同じことになる。施設に預けても意外に適応もいい。

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