認知症予防の本や雑誌の企画を見かけないことはほとんどないし、また認知症になったら安楽死させてくれというような本がベストセラーになっている。
認知症は怖い病気、認知症になるのだけは避けたいと思う人がそれだけ多いということだろう。

私の本業は老年精神医学といって、高齢者を専門とする精神科の診断や治療を行う仕事に従事している。
この仕事を経験する中で、高齢者に意外にうつ病が多いことや、薬物治療などが有効であることなどを知るのだが、認知症については、ある種の老化現象で、早い遅いの違いはあるが、基本的には認知症になる前に亡くならない限り、誰でもなりえる病気だという風に考えるようになった。
今回は、将来のサバイバルのために、誰もが認知症になりえることも含め、高齢になったらどんなことが起こるのかを知り、その可能な対策について考えてみたい。
認知症になることを前提で物事を考える
少なくとも、厚生労働省などの行政機関は、高齢者の増加に伴って認知症が増えることは避けられないものとして、対策を進めている。
そして、地域住民の様々なサンプル調査や、住民調査が行われ、年齢別にどのくらいの人が認知症に当てはまるのかも明らかにされ始めてきた。
データによってばらつきはあるが、85歳を過ぎると、テスト上、あるいは診断基準上は、4割程度の人が認知症になるとされている。多いデータでは、55.5%という結果もある。
これが90歳以上ということになると、5割から7割が認知症に相当するとされている。要するに長生きすればするほど、ほとんどの人が認知症に当てはまるようになるのだ。
私はかつて、浴風会病院(東京・杉並)という日本最初の老人専門の総合病院に勤務していたことがある。
この病院は、老人ホームを併設していて、身寄りがないお年寄りの患者さんが少なくない。昔からの伝統で、亡くなる患者さんの半数くらいの方を解剖するのだが(年間100人くらいになる)、85歳を過ぎて脳にアルツハイマー型の変化のない人はいなかった。
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