実際、過去にもSMAPのメンバーが飲酒による奇行で逮捕されたり、歌舞伎役者が酒に酔った勢いで元暴走族メンバーに喧嘩をふっかけて大けがをしたりするという事件もあった。その時もアルコール依存症の啓蒙のチャンスだったのに、まったくその文脈で報じられることはなかった。

意志の問題として片づけられる

 それどころか、依存症に関して、誤解をまき散らし、かえって医療と遠ざけるような報道が目立ったことには愕然とした。

 山口氏はこの事件の直前に入院していたことが明らかにされているが、退院直後に大量の飲酒をしていることを告白している。ちょっとくらいならいいだろうと思って、焼酎を一瓶もあけたとのことだが、少しくらいがやめられなくて大量飲酒に至るのはアルコール依存症の典型的なパターンである。依存症の治療で入院していたとするなら、少量でも飲むなと徹底的に教育されるのが原則だから違和感を禁じ得ない。

 さらに入院に一泊10万円もかかっていたことが強調されていたが、これはセレブ患者向けの個室の話であって、依存症の治療に金がかかる印象が持たれるなら遺憾である。

 それ以上に問題なのは、山口氏の意志の弱さを指摘する声が目立ったことだ。

 アルコール依存でも、覚せい剤依存でも、ギャンブル依存でも、依存症の怖いところは意志が弱いからそうなるわけではなく、意志が破壊される病気だということだ。ギャンブル依存の専門家の帚木蓬生氏はギャンブル依存について、「進行性で自然治癒がない」とまで言い切っている。

 詳しいメカニズムはあえて書かないが、脳科学の立場からも心理学の立場からも意志が破壊されることを示唆する仮説が多数打ち出されているし、私もそれを支持したい。

 確かに、「自然治癒はない」というのは言い過ぎにしても、意志で治る人は相当な例外と言える。

 意志があてにならないのであれば、やはり医療に頼るのが妥当な解決だろう。

 治療の基本はアルコールや薬物、覚醒剤の場合は、一定期間それを断つことであり、その後は自助グループでの助け合いである。ギャンブル依存やネット依存、買い物依存のような行為に対する依存の場合は、いかに自助グループにつないでいくかが重要な鍵となる。

 自助グループと言うのは、同じ依存症を持つ人間で集まりあい、悩みを共有すると共に、再び依存物質や行為に走らないように支えあうグループである。

 要するに依存物質や行為への依存から人への依存への転換を図るということだ。