経営や政治に心理学者を重用するアメリカ

 日本と比べるとアメリカでは、経営にも政治にもはるかに心理学者が重用されている。消費者心理の分析であれ、マネジメントでどうすれば従業員のやる気が増すかであれ、あるいは経済政策の立案であれ、外交問題における相手国の国民や指導者の心理分析であれ、心理学者のアドバイザーの活躍の場は多い(トランプの時代になってからのことは分からないが)。

 実際、心理学を組み入れた経済学理論である「行動経済学」の代表的な研究者であるダニエル・カーネマンは、心理学(経済学部に異動したわけでない)の教授の肩書きのまま、2002年にノーベル経済学賞を受賞している。行動経済学が明らかにした(薄々は分かっていても定式化したと言っていいだろう)ものに、人間は得より損のほうに強く反応するということがある。

 例えば、10万円のものを1万円まけてもらって得をした場合と、10万円で買ったものが近くの店で9万円で売っていることが分かり、1万円損をした気分になるのとでは、多くの人は、前者の得した気分より、後者の損をした気分のほうが強く感じるだろうし、後々まで尾をひく。心理学の実験では、損のインパクトは得のインパクトの2.25倍だそうだ。

 こういうことを真面目に研究した行動経済学は、おそらくは「人々が合理的に判断する」という前提で想定された旧来型の経済学より、はるかにまともな行動予測が可能になり得る。

 旧来型の経済学では、1万円の昇給が経済を好転させる効果と、1万円の減給が経済を悪化させる効果は同じということになる。ところが、行動経済学の考え方では、1万円給料が下がったショックは、2.25万円給料が上がった喜びと同等の心理的インパクトがあることになる。そして恐らくは、そのほうが現実の人間の行動予測に役立つ。

 経済学に心理学が大きなインパクトを与えたように、経営学やマネジメントでも相当な影響力を持つようだ。アメリカのビジネススクールに留学した人たちに聞くと、心理学の講義や演習をかなりの時間、課せられるようだ。