アメリカでは、税逃れは徴兵逃れと同じ

 前置きが長くなったが、現代社会におけるノブレス・オブリージュや徳というのは、ボランティア活動もさることながら、政治家のような為政者が財政規律を保つために無駄遣いをしないとか、富裕層や勝ち組になった人間が、国のために私有財産を差し出したり、貧しい人や困っている人のために寄付ができるかということだろう。

 日本では、ケネディの「国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか」という就任演説が、生活保護たたきにも使われたことがある。しかし、もともとの趣旨は共産主義に立ち向かうための貧困撲滅が重要なテーマと論じた上の話であり、軍備増強の必要性も含めて、金持ちにきちんと税金を払うことを訴えたように読める内容だ。

 トランプ大統領が品のない人間と見られるのも、彼の物言いだけでなく、大富豪でありながら、寄付をろくにしないという背景もあると、何人かの知り合いのアメリカ在住の人に聞いた。

 日本で寄付行為が少ないのは税率が高い税制のせいだと言われることが多い。しかし、ビル・ゲイツが全財産の99%を寄付する予定という話になっているように、税金で持っていかれる以上の寄付をするくらいでないとノブレス・オブリージュとは言えないと考える文化がアメリカにはある。

 確かに金持ち減税を支持する声はアメリカでも強いが、選挙で決まった以上は従わないといけないというコンセンサスはある。税逃れをする企業や個人を罰すべきという風潮は強く、資産家の租税回避行為に関する機密を漏洩したパナマ文書などは日本では黙殺されたが、海外では大スキャンダルの扱いだった。

 今回の選挙ではトランプが勝ったが、もしサンダースが勝って富裕層に重税を課した場合には、税逃れで海外移住をした人たちがバカにされたり、その人たちを罰する法律を作ったりという機運が高まっていたはずだ。企業はともかくとして、個人が「税率を上げるなら海外に移住する」などと言おうものなら非国民扱いされかねない。アメリカでは、税逃れは徴兵逃れと同じで、アメリカが世界の警察、軍事大国であることを維持するために必須の道徳なのだ。

次ページ 勝ち組が「徳」を見せないと恥ずかしい社会に