分からないからこそ、なるべく多くの仮説を

 ここまでの話を聞いて、たらればの話が多過ぎるとか、夢想と思われたかもしれない。私もそれは否定しない。ただ、この手のことが起こる可能性は少なくともゼロではないと思っている。

 そもそも金正恩という人物をどれだけ知っているというのか? 北朝鮮の専門家と称する人間が、誰一人として、金正日の後継を当てられなかったのは厳然たる事実である。

 生年月日だって発表されていないし、私の知る専門家によると、北朝鮮が公式に金正恩が金正日の三男だと発表したことはないそうだ(その人は金日成の隠し子説を唱えていた。確かにそうであれば、儒教国家で兄弟を超えて国のトップになることや、兄を殺しても国内で問題にならないことにも辻つまが合う)。

 経歴上は、長らくスイスに留学していたことになっており、これが事実なら、実は解放論者であってもおかしくはない(恥ずかしながら私はこの経歴は作り話で、軍部がかいらいとして担ぎ上げた人物だと信じていた――もちろん今でもその可能性は残るが)。ミサイルも核も単なるポーズで、アメリカと会談をするための道具だった可能性がゼロでないということだ。

 しょっちゅうテレビで見かけるから勝手に分かった気になっているだけで、これほど謎の多い人物は世界中の首脳の中でも珍しい。

 私が言いたいのは、相手のことをよく知らないし、北朝鮮の内部に入れない以上、金正恩の人物像やパーソナリティについては、誰の言うことも想像に過ぎないということだ。日本のメディアや政治家は、金正恩がゴリゴリの軍事主義者の独裁者と決めてかかっているが、少なくともほかの可能性もある。

 私の話はたらればの話で、もちろん正解だと主張するつもりはない。むしろいろいろな考え方の一例のつもりで提示しただけで、ほかにもっとたくさんの可能性があるというのが私の立場だ。

 マスメディアが無責任は発言をしても仕方ないかもしれないが、国のかじ取りをする人間にはなるべく様々な可能性を想定して、それぞれに対して対策を考えられるようにしてほしいというのが、日本のサバイバルに対する私の願いだ。少なくともそのほうが心理学の立場からすると健全な思考パターンなのである。