人は複数のことに注意を向けるのが苦手

 心の治療法の一つである森田療法では、「些事(小事)にとらわれ、大事を忘れる」という考え方がある。要するに自分の症状ばかりを気にしていると、ほかの大切なことが見えなくなるということである。

 例えば赤面恐怖の人は、自分の顔が赤いことばかりを気にしている。「なぜ赤いのがまずいのか?」というと「人に嫌われるから」ということで、人に好かれたいという願望が強いことは分かるのだが、赤い顔を治すことばかりに気持ちが行っていて、肝心の人に好かれるための努力を忘れてしまうことがある。

 実際、手品などでも、他のことに気を引いているうちに、本当のタネのほうを気づかれないうちに仕込むように、人間という生き物は一つのことにばかりに関心や注意が行くと別のことが見えなくなるようだ。

 オリンピック報道が沸き立っている際に、「働き方改革」の法案が審議されていた。この問題のほうが、多くの労働者にとって将来に大きな影響を与えることになるのだが、ほとんど関心が寄せられていなかった。

 これも勘繰りかもしれないが、オリンピックの時期は決まっていたので、この時期に自民党があえて審議をしようと設定した可能性だってあるだろう。

 この際に、実労働時間ではなく、あらかじめ決められた「みなし時間」で計算する裁量労働制のほうが労働時間が短くなるというデータの根拠が疑わしいものとなり、首相が発言を撤回したり、陳謝したりすることになった。これも、多少は報じられたが、オリンピックの期間中でなければ、連日のようにものすごいトピックスになっていた可能性がある。

 森友問題にしても共産党の議員が音声データを出して質問したが、オリンピック期間中なので、それを各局が流すことはほとんどなかった。

 意図的かどうかはともかくとして、オリンピックで沸き立つことで、自分たちの税金の使われ方や、働き方に影響を与えるようなことに目がいかなくなることは、国民にとってハッピーなこととは思えない。

 日本人の多くは気付いていないが、日本は先進諸外国と違って普通に選択できるテレビ局の数が少ないと感じる。確かにデジタルBS放送は無料で見れるし、デジタルCS放送も徐々に普及しているのだが、視聴率が高めのデジタル地上波放送は大都市でもNHKと民放5局、地方局といった状態のままだ。先進諸外国では30局くらいを対等にザッピングできる。私も自分の原作がBSでドラマ化されたことがあるが、BSの視聴率1%は地上波の10%の価値があると言われたことがある。いずれにせよ、ある大きなイベントがあると、国中の地上波テレビがそれ一色に染まりやすい。そのリスクも多少は考えておかないと、どんな不慮のことが起こるか分からないことも心しておきたい。