感情の暴走を防ぐには合格点主義で

 これらの「感情的」な行動に対するコントロール力はサバイバルのために必須のものだ。怒りが言動に直結しやすい人は、脳の前頭葉によるコントロール機能を高めることが大切とされている。深呼吸や笑いは、前頭葉の感情による窒息状態を改善するとされる。

 感情がエスカレートしやすい認知パターンを矯正するというのが、現代のカウンセリング的な治療の有力な方向性になっている。

 例えば完全主義とか、「べき」思考の強い人は、完全でなかったり、自分が描く「かくあるべし」像に達しなかったときに、そのことばかりを気にして、自分を責めて鬱になりやすい。白でなければ黒というような二分割思考の人は、味方と思っていた人がちょっと自分の批判をしただけで敵になったと考える。こういう際に鬱になったり、怒り感情がエスカレートする。

 このような思考パターン、認知パターンを改めるだけで感情のテンションは下がるし、判断が冷静なものとなる。完全主義から合格点主義になることができれば、多少の失敗があっても合格点に達すればいいということで、心の余裕が出てくる。人を見る際に白か黒か、敵か味方かではなく、グレーの濃さという見方ができれば、味方が敵になったと思わず、思ったよりグレーの中の黒の割合が高かったという見方が可能になる。

 人間というのは感情だけでなく、比較的普遍的な心理傾向によっても、判断が歪められやすい。そういう行動や判断が経済に与える影響を研究する行動経済学は、世界のトレンドとなりつつあり、2002年のダニエル・カーネマンに続き、2017年にはリチャード・セイラーがノーベル経済学賞を受賞している。

 例えば、人間というのは、得をしたインパクトより、損をしたインパクトのほうが大きいため、損を避ける行動を取りがちだ。だから、今よほど損をしていると思うような状況では現状維持を選んでしまう。日本経済を見ていると、得を取りに行こうというより不安感情から内部留保のようなものが増える一方だし、選挙でも世の中を変えてもらうより、現状維持を求める心理が強く働いているように見える。

 この手の感情的判断を防ぐ一番大切なポイントは、自分がそれに陥っていないかという自己モニタリングを行うことだ。認知心理学の世界では、この手の自分の認知パターンを俯瞰して認知することをメタ認知と呼ぶ。これは能力というより態度と考えられている。要するに、それを心掛けることが大切なのだ。

 もちろん、そのモニターを行うためには、そういう心理パターンについての知識も必要になる。今回、『感情バカ』(本当は『感情的とは何か』というタイトルにしたかったのだが)という本を出したが、そのヒントにしてもらえると幸甚である。