認知症になる前に後見人を決めておく

 さて、自分がボケた場合、ホームに入ることを事前に決めていても、その意思がボケた人の意思ということで認められないことがある。

 有料老人ホームの多くが償却制や家賃の前払いの形を取っていて、入居時に一括して払ったお金が5年とか10年で返って来なくなる。そのために子どもの相続財産が減るので、かなりの資産家であっても、この手の高級有料老人ホームに子どもが入れたがらないことが現実に起きているし、私の患者さんでも何人か経験している。

 親と同居している子どもは、施設のほうが親もいろいろなサービスを受けられるし、在宅介護では自分が潰れてしまうという自覚もあってホーム入居を検討するのだが、そのきょうだいが反対するケースも珍しくない。

 親が認知症などになって意思能力が減弱したり、なくなったりした際に、子どもやその妻が親の意思を代行したり、補助したりできる制度に「成年後見制度」というものがある。親の認知症が進んで、自分の配偶者も高齢というような場合に、医師がその親の意思能力がないという鑑定書や診断書を出して、子どもを後見人として裁判所が選定すれば、後見人である子供は親の財産を代わりに管理できる。また、親が行きたくないと言っても(元気なころはホームに入ると言っていた人でも認知症になると家に執着することがある)老人ホームに入居させることができる。

 問題は、特に財産のある家では、後見人が決まらないということだ。

 診断書上は後見(意思能力が事実上ない)レベルということで、裁判所が成年後見の対象と認めても、誰を後見人にするかでもめ事が起こる。後見人が親の財産を自由にできる(もちろん私的に使ってはいけないのだが)ということで反対するきょうだいが出てくるからだ。もちろん、第三者である弁護士にお金を払って後見人になってもらうこともできるのだが、それだってきょうだい間のコンセンサスがないと不可能だ。裁判で争って後見人を選ぶということもあるのだが、その間に親の認知症は進み、介護している家族は疲弊する。

 こういう事態を避けるために「任意後見」という制度がある。

 本人がしっかりしているうちに、自分がボケたり寝たきりになったときに、誰に財産の管理や介護についての判断をしてもらうかなどを前もって契約しておく制度だ。任意後見人が自動的に成年後見人になれるわけではないが、この契約の範囲のことは自分が選んだ任意後見人が引き受けることになる。将来のもめ事を避けるためにも知っておいて、あるいは使っておいて損のない制度と言える。

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