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絶対的な解は存在しない

 もう一つの専門分野である老年医学にしても、高齢者の血圧を下げた方がいいのか、どのくらいまで下げるべきかという議論や、高齢者の血糖値のコントロールやコレステロール値のコントロールについて、学会の主流派に異議を唱え続けてきた。

 疫学的にみると、少なくともコレステロールは高い方が長生きしているのだが、これについても大勢の人間を調べての統計なのだから、個人個人で違うだろう。高いままにした方が長生きできる人の方が、下げた方が長生きできる人より多ければ、高いままの方がいいという疫学データになるわけだが、下げた方が長生きできる人はゼロではない。やはり、ケースバイケースなのである。

 また、昔は植物の油の方が動物の脂よりいいので、マーガリンが体にいいと考えらえたことがあるように、医学や栄養学の常識は、覆されることも多い。

 将来、覆されることも想定しながら、いろいろな説がある中で、今のところ、どれが妥当なのかを患者ごとに考える方がよほど現実的だろう。

 正解はいくつもあると言われても、生きている限り、さまざまな決断を下さないといけないことは当たり前にある。

 私だって、目の前の患者さんにいくつも考え方があることを説明することはあるが、通常は、今のところ、正しいと思うことをやるようにしている。

 この「今のところ」の考え方と、「ほかにも答えがある」という考え方こそが重要だと私は信じている。というのは、それよりいい答えが見つかったり、今、正しいと思っていることが、どうもうまくいかないと思える時に、フレキシブルに別の答えに移行できるからだ。

 恐らく、これから人工知能(AI)の時代になったり、人間のゲノムが解析されたりで、どんどん信じられてきたことが変わる時代がくるだろう(これも意外に変わらないかもしれないが)。そうなる際に、この手のスタンスは役に立つと信じている。

ネット右翼、実はアクティブで高収入

 たまたま、テレビを見ていたら、ネット右翼とされる人が、これまで考えられていたような貧困層の引きこもりなどではなく、中高年の自営業や会社経営者のように、アクティブで高収入の人が多いという調査結果を論じていた。

 確かに、普段は大人しい引きこもりの人や、海外のようにはデモをやらない貧困層の人が、ネット空間では内なるアグレッションを発散しているというのは、もっともらしい説だが、精神科医としての経験でいうと、ちょっとしっくりこなかった。

 引きこもりの専門家の斎藤環さんが、「ゲームのせいで引きこもりになるわけでなく、ほかにすることがないからゲームをやるだけだ。その証拠に、引きこもりの人はゲームをつまらなさそうにやる」というような意味のことを言っていた。

 フロイトはあるエネルギーを心の中に押し込めると、別のところからエネルギーを噴出するというエネルギー経済論という学説を唱えたが、実際には、エネルギーのない人はほかのところでもエネルギーがない人が多い。投票にはいけないが、ネットに書き込んで世の中を変えられると思っているようにも思えない。