新しい知見を認めず研究しない日本の医学界

 私は、恐らくこの手のことは氷山の一角で、治療方針を変えるべきなのに、権威の面子のために変わらないままになっていることは珍しくないと思っている。

 2008年にニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンという臨床医学の世界で最も権威のある雑誌で、糖尿病の治療について、約5000人の厳格管理群とほぼ同数の標準管理群との長期間の比較試験が行われた。結果的に、ヘモグロビンA1cという糖尿病の指標を正常レベルまで下げようとした厳格管理群のほうが、3年目くらいから心血管死亡が多いことが分かった。

 しかしながら、日本の糖尿病学会はなかなかこれを認めようとせず、ガイドラインの変更がなされるのに5年もかかった。

 糖尿病は治療の目標値が変わっただけましなほうだが、メタボリックシンドロームの対策においては、コレステロール値が高いほうが長生きしているとか、やや肥満の人のほうが長生きしているという大規模な疫学調査があるのに、まったく目標値が変わらない。むしろ、体重を減らすことやコレステロール値を減らす指導を強化しているくらいだ。

 自分たちがこれまで患者に言ってきたことを変えるのがそんなに不快なのかとつい思ってしまう。もちろん、疫学データだけを信じるべきではないという考え方もあるだろう。私が不満なのは、なぜまともな比較調査をやらないのかということである。私や別の医師たちがいくつかの疫学データを基に旧来型の治療を批判しても、権威の医師たちは無視黙殺をするだけで、なかなか持論を変えようとしない。

 コレステロール値については、薬や生活指導で下げた群と下げないで放置した群で、その後の死亡率や心血管障害の罹患率、あるいはがんの罹患率(コレステロール値が高いほうが免疫機能が上がってがんになりにくいから、高めのほうが長生きしているという仮説がある)などの比較調査をすれば、これまでの治療方針でいいかどうかの答えはすぐに出る。もし下げなくていいのなら無駄な医療費はかなり減るし、成人向けの生活指導も大幅な変更が必要となる。もちろん、下げたほうがいいという結果が出れば、安心して現在の治療を続けられる。

 がんの放置療法にしても近藤医師を批判する人たちは、放置したために早く死んだケースを紹介するだけだ。近藤医師のほうも放置して長生きできたとか、生活の質が上がったという人を100人以上紹介しているので、これでは水掛け論になってしまう。曲がりなりにも批判する側が学者なのだから、比較調査をすれば済む話なのに、それをやろうとする話を聞いたことがない。

 こんな医学界の怠慢が続いているから、医学常識が変わらないだけかもしれない。

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