巨人軍でレギュラー捕手争いを繰り広げる小林誠司選手は日本代表チームでも活躍する(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
巨人軍でレギュラー捕手争いを繰り広げる小林誠司選手は日本代表チームでも活躍する(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 プロ野球に教え過ぎるコーチはいらない。こんなことを書くと、各方面からお叱りを受けるだろうか?それはプロ野球だけでない。おそらくほとんどのスポーツに当てはまる選手育成方法と言っていいかもしれない。

 コーチという立場と役割を否定しているわけではない。ただ、下手をすると何でも教えすぎて(自分のスタイルを押し付けて)、選手の思考停止や反発を招いているコーチも少なくない。こうした場合はコーチの思いとは裏腹に、その指導が選手の成長を阻害してしまっている。

 もちろん優れたコーチの的を射たアドバイスが選手を劇的に躍進させることがある。例えば女子プロテニスの大坂なおみ選手とサーシャ・バインコーチの関係だ。それまでどんなボールでもハードヒットしていた大坂選手に「そんなに思い切り打とうとしなくていい」と助言し、大坂選手のプレースタイルが激変した。二人がコンビを組んだのは、2017年12月から。それから1年もしないうちにグランドスラムの一つ全米オープンを制してしまった。

 この二人の関係は、選手とコーチの役割を考える上で理想的なモデルケースと言えるだろうが、大坂選手に起こったことは、ある種の「気付き」であり、サーシャコーチは、そのヒントを彼女に与えたのだ。

 メディアを含め、私たちは「〇〇コーチが△△選手を育てた」という言い方をよくしてしまうが、実際には〇〇コーチのアドバイスのおかげで△△選手が見事に自分自身を成長させたのだ。つまり選手は、それがどんなスポーツであれ、最終的には大事な何かに気がついて自分自身で成長していくのだ。 

 もちろんコーチの存在も極めて大事だ。彼らの存在が選手にとっても大きな支えになる。決して選手だけでは上手くなれない。ただ最後は、選手の自覚と自身の能力でそれまでの自分を越えていく。選手は教えられて上手くなるのではなく、自分自身で伸びていくのだ。前述の「プロ野球に教え過ぎるコーチはいらない」とは、そういう意味である。

 その観点で言うと、たとえば今、東京読売巨人軍で起こっている捕手をめぐる競争は、健全で有効な選手育成方法といえるだろう。

 巨人の扇の要は、誰が守っているのだろうか。巨人ファンならすぐに小林誠司(29歳)の名前を挙げるだろう。その他にも大城卓三(25歳)や宇佐見真吾(25歳)らもいる。もしかするといまだに阿部慎之助(39歳)の名前を挙げる人がいるかもしれない。では、誰がレギュラーかと問えば、やはり実績から言ってサムライジャパンの一員でもある小林選手だろう。しかし、チーム内で全幅の信頼を得ているかと言えば、まだその立場ではないという評価が一般的だろう。

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