「恋愛禁止」
スポーツ紙の一面に踊ったその大きな見出しを見て笑いながらも、「それがいいだろう…」と思った。アイドルグループの「掟(おきて)」ではない。新人のプロ野球選手に対するアドバイス?、注文?、指令?である。
もしもこれが一般の企業だったら笑えない話だ。社長や上司が新入社員に対して「恋愛禁止」を求めたらどうなるのだろうか?
苦情やクレームのレベルでは済まないだろう。
炎上?
もしかすると法的な問題にも発展しかねない。
しかし、これがプロ野球の世界となると、人権問題や権利侵害に目を光らせるメディアはもちろん、多くのファンにも理解されるところになるから不思議だ。
北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督は、ドラフト1位の清宮幸太郎選手に対して20歳までは「恋愛禁止」を求める意向だ。(写真はプロ志望表明会見でのもの、YUTAKA/アフロスポーツ)
北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督が注目のドラフト1位、清宮幸太郎選手に対して20歳までは「恋愛禁止」を求める意向だと言うのだ。
言うまでもないが、栗山監督が恋愛そのものを否定している訳ではない。素晴らしい選手になるためには土台作りが肝心だ。その意味で他のことに気を取られることなく、「20歳までは野球に集中してほしい」と望んでいるのだ。
高校を卒業してプロ野球の選手になるということは、実社会に出て社会人になるということ。そんな人に「恋愛禁止」なんて子供じゃないんだから…という声も当然あるだろう。そんなことをやっているから、逆に社会人としての自立が遅れるのだという指摘も的を射ている。
何をやろうが社会人になれば自分の責任。自分で自分自身をマネジメントできなければ、それこそ野球どころではないだろう。そんなことは本人に任せておけばいいのだという主張が多数派なのかも知れない。
しかし、そこに注文を付けるのが栗山監督のマネジメントであり選手育成法と言えるだろう。
大谷選手も外出時の行動を事前報告
今オフにメジャーリーグ移籍を目指す大谷翔平選手も、入団して数年は外出時に栗山監督に電話することになっていた。
「どこで何時から誰と会って何をするのか」
詳細を監督に事前に報告する。
オールスターゲームの後で先輩の中田翔選手らと連れ立って他球団の選手たちと会食に出掛けた際、栗山監督への連絡を怠って大目玉を食らったことがあるが、大谷選手はこの約束を励行して「二刀流」を見事にやってのけた。
私自身も選手として、また取材者として30年以上プロ野球の世界と関わり続けているが、やはりプロ野球選手は人気者。良い意味でも悪い意味でも、ちやほやされるのだ。良からぬ輩(やから)が寄ってくることもあれば、お姉さんたちの誘惑もある。すべてがハニートラップというわけではないが、気を付けるに越したことはない。
恋愛ももちろん大事だが、まずは野球に専念して押しも押されもせぬ選手になってから、堂々と恋人を作ってほしい。栗山監督の要求は親心であり、また同じ年代の若い選手へのアドバイスを清宮選手を通じてアナウンスしていると取るべきだろう。
しっかりとした人柄が成長を早める
清宮選手は、ドラフト指名後の記者会見で言った。
「人間としてしっかりしないといい選手にもなれない。グランドの内外で尊敬されるようになりたい」
こう語る清宮選手だから、栗山監督の「恋愛禁止」が意図するところは十分に理解できるだろう。それよりも彼が言う「人間としてしっかりしないといい選手にはなれない」ということの意味を、私たちは考えるべきだろう。成功を収めた社会人の先達は、みなこの言葉にうなずいているはずだ。
人間としてしっかりしていないといい選手になれない。
なぜか?
いい選手とは自分自身で「成る」ものであり、周囲の協力と応援で「成らせてもらう」ものでもあるからだ。
しっかりとした人柄が周囲の理解と支持を得る。それが選手としての成長を早めてくれる。
新人がまず築くべき関係は、球団フロントや首脳陣、同僚の選手やファンに「好まれる選手になる」という恋愛関係にも似た信頼関係だ。
そのためにもまずは100パーセント野球に集中する。目指すべきは野球(仕事)との相思相愛だ。
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