野球はだまし合いの連続

 岐阜県で育った彼は、子どもの頃からドラゴンズを見て育ったそうだ。もちろん中日も好きなチームの1つだったことだろう。ここでも彼の固い表情にすっかりだまされてしまった。

 これだけ根尾選手への見立てが外れている当方の原稿に、どれだけ説得力があるのか分からないが、こうしたこと(周囲を良い意味であざむけること)が彼の野球選手としての才能を物語っていると私は感じている。

 そもそも野球とは、正々堂々と相手をだます競技だ。敵の裏をかいたり、塁を盗んだり、ランナーを刺したり。だまし合いの連続で試合が決着する。

 ピッチャーをやらせれば時速150キロの速球を投げる肩を持ち、ショートを守らせれば俊足を生かした守備範囲の広さは抜群で、状況判断にも優れている。しかも打者をやらせれば、ホームランも打てれば、打率も稼いで、盗塁も狙える。野球選手として、必要なセンスをすべて持ち合わせていると言えるだろう。

 ただ、プロ野球に指名されて入団する逸材は、多少の差はあれ誰でもそのあたりは普通に持ち合わせているのだ。

 それでは、成功の可否は、何で決まるのか?

 それは、根尾君が持っている「自分で自分をプロデュースする力」だ。周囲に流されることなく、自分の能力を冷静に見つめて、何が最善かを見抜く力。彼は、驕ることなく悲観することなく、常に自分自身を客観視する視点を持っているのだ。

 そんな彼が、「二刀流」という華麗なスタイルに踊らされることなく、将来を見据えて現実的に出した答えが「ショート一本」だった。

 身長177センチ、体重80キロ。

 高校野球なら問題ないが、プロ野球の投手としては、いまや小柄と言っていいフィジカルだ。二刀流の本家「大谷翔平」選手は、身長193センチ、体重97キロである。その意味でも根尾君の「ショート一本」は賢明な選択と言えるだろう。

 彼は、ショートの魅力を次のように語っている。

 「すべてのプレーに関わるポジション。ショートがチームの顔、一番の花形。憧れの場所です」

 そこまでショートに惚れ込んでいるなら、もう言うことはない。ショートとしてドラゴンズの顔になる。いや、プロ野球の顔になる。

 これだけ冷静に周囲をだませれば、その資質は十分だと言えるだろう。
 最後にもう一度書くが、ここで使う「裏切る」や「だます」は、18歳の強い意志を持つ青年に対する最大限の誉め言葉だ。

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