7回TKOで新チャンピオンに

 そして、その予感を誰よりも抱いていたのがチャンピオンのエンダムだった。7回まで村田のパンチを受け続けていたが、勝てるとは思えなくなったのだろう。戦意を失ったエンダムはコーナーを離れることはなかった。

 7回を終わってのTKO(テクニカル・ノックアウト)。エンダムとの再戦を勝利で飾った村田諒太が新チャンピオンになった瞬間だった。

 8月にも当コラムで村田の話題を取り上げた(過去記事「理不尽をバネに! ボクサー村田の最強メンタル」を参照)。その時にも書いたが、私が彼に感銘を受けたのは「戦うということ」そして「スポーツというもの」について、これほど見事に言葉にした人がいないのではないかと思ったからだ。

 負けた翌日、村田はエンダムを訪ねて言った。

 「判定は僕らの問題ではない。素晴らしい経験をありがとう。昨日は敵だったけど、今日は友だ」

 また自分の敗戦を見つめてこうも言った。

 「僕にとって最悪の状況は、『何であれで村田が勝つんだ』という試合内容でチャンピオンになることだったんです。それを思えば試合の内容は良かった。半信半疑だった自分の実力に自信を持てる戦いができた。それはエンダムが素晴らしい選手だったから。だから彼にはお礼が言いたかったんです」

 悔しい思いはあるものの村田は誰よりも早く、そして見事に自身の戦いを消化(昇華)していた。だから、判定に対して根に持つような言い方はしたくない。それでは彼の高潔な思いを台無しにすることになってしまう。そこで私も、あの一戦の記憶を「小骨」に例えたいと思ったのだ。