喉の奥に刺さっていた小骨がやっと取れて、スッキリとした解放感に襲われた。小骨が刺さったのは5月20日、見事に取れたのは10月22日のことである。
ボクシングの勝利を魚の小骨に例えるのは、世紀の対戦を矮小化しているように思われてしまうかもしれないが、言いたいことは決して小さなことではない。そのボクシングの勝利とは、もちろんWBA世界ミドル級チャンピオンになった村田諒太選手の対戦のことである。

多くの人が見たであろう、あの夜の一戦(22日・両国国技館)を詳細に語る必要はないだろう。5月の王座決定戦でアッサム・エンダム選手(フランス)と対戦した村田は、不可解な判定でベルトを手にすることができなかった。
不可解というのは決して私個人の見立てではない。WBAのコミッショナーですらこの判定に対して村田サイドに謝意を示したほどだ。誰が見ても村田の勝利は疑いようのない試合内容だったが、なぜかジャッジはエンダム有利の採点をしたのだ。
この試合でダウンも奪った村田だったが、唯一エンダム有利の要素があったとすれば、繰り出したパンチの数は劣勢の中でもエンダムのほうが多かったということだろう。
前回の痛すぎる教訓は、試合序盤から生かされていた。的確なパンチを繰り出すと同時に、手数でもエンダムに負けることはなかった。
ガードを固めてどんどん前に出ていく村田。その攻撃をかわすように華麗にステップを踏むエンダムだったが、村田の圧力に押されているのが見てとれた。じりじりとエンダムを追い詰める村田。相手をマットに沈めるパンチがいつ飛び出すか。それは時間の問題のように思われた…。
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