「家族一丸」で頂点へ

 まずは、新井がタイムリー2塁打の感想を語る。

 「代走のタカシ(上本崇司)が2塁に走ってくれたので、一気に気持ちが高まりました」

 続いてマイクを向けられた菊池は、次のように答えた。

 「(新井のことは)お兄ちゃんにしか見えないです。(球場が)ガラッと、一気に『いってやるぞ』という雰囲気になりました。お兄ちゃんが打ったので弟も打たないといけないプレッシャーがありました」

 あと1勝で日本シリーズ決定。最後に新井が言った。

 「余計なことを考えず、とにかく明日の試合に『家族一丸』で頑張りたいと思います」

 そして、新井と菊池は、お立ち台の上で抱き合って見せたのだ。

 それは笑ってしまうほど大げさな抱擁だったが、私はそのシーンを見ていてなぜか広島の優勝を確信してしまったのだ。

 この予感めいたイメージを論理的に説明するのは難しいことだが、それを感じさせる要因は「兄」「弟」「家族」といった人間関係にまつわる要素だ。

 こうしたことの意味と機能を客観的に考えるために、次のような記事を紹介したい。10月22日の日本経済新聞の朝刊にこんなデータが載っていた。

 セーフティネットという民間の調査会社が手がけたメンタルヘルスケアに関する調査結果だ。働く人を対象に「ストレスが高いグループ」と「それ以外」に分類し、それぞれに「仕事上で困ったときに相談できる人の有無」を尋ねた。すると「相談できる人がいない」と回答した割合は、「高ストレス者」が45%で「それ以外」では15%にとどまったというのだ。

 また記事では「相談できる人の有無」と睡眠時間や残業時間の関係にも触れている。「相談できる人がいる人」は、睡眠時間が長く、残業時間は短い。「相談できる人がいない人」は、睡眠時間が短く、残業時間が長いという傾向にある。相談できる人がいる方が、どうやら仕事の効率も良さそうだ。

 ストレスにはもちろんいろいろな要因があるが、職場においては、何でも相談できる人の有無が、ストレスの高低にも関係している。カープにおける新井貴浩の存在は、まさに何でも相談できる「お兄ちゃん」なのだ。こうしたデータをもって、野球でもストレスの少ないチーム(人間関係)が、仕事同様により成果が上がる……と考えることは乱暴な仮説だろうか。

 古い話になるが、私もこれでもプロ野球の一員だった。その後も取材を通じて多くのチームを見続けている。選手間で「兄」や「弟」のように仲の良い関係はもちろんある。