汗とカビの匂いが染み込んだ部室

 そのほかにも、中学、高校の部室の匂いも忘れることができない。汗とカビの混じった鼻を突く匂いだ。大学で着ることができた公式戦用のユニフォームの匂いもよく覚えている。それはクリーニングの匂いがした。中学、高校は、たとえ試合用でも自宅で洗濯していたが、大学になれば、汚れたユニフォームはクリーニング屋に出すのだ。

 思えばスポーツは、「香り」や「匂い」に溢れている。それが、良き思い出となって郷愁を呼び起こしたり、再びそれを味わおうとする行動を無意識に引き起こしたりする。

 力士に出会った人はみんな覚えていることだろう。忘れがたいのは、鬢付け油の匂いだ。新幹線で力士と乗り合わせるとすぐに分かる。車内にあの何とも言えない甘い香りが漂うからだ。お相撲さんの不動の人気は、あの香りに支えられている気がしてならない。

 サーキットに行った記憶も匂いで覚えている。二輪も四輪も、あの燃料の焦げた匂いが、独特の高揚感を喚起する。サーキットでは、その匂いが観客のガソリンとなって彼らを活気づけるのだ。

 馬術を観に行くと、何だか気持ちが落ち着く。馬の匂いを懐かしく感じる。私たちは、きっとこの匂いに昔から親しんできたのだろう。身体の中にメモリーされている馬との記憶が、その匂いと結びついて再生されるような感覚を覚える。それが懐かしさや落ち着きを連れてくるのだろう。

 競泳を観に行くと生温かいプールの匂いがする。それはちょっとだけケミカルな香りだ。柔道や空手、剣道の大会を見に行くと戦いの匂いがする。躍動する身体から発せられる汗の香りだ。

 スピードスケートやフィギュア、アイスホッケーの試合を観に行くと氷を維持するために室温が低いので、無臭で空気が固い感じがする。それが張り詰めた緊張感を生み出している。

 天然芝の野球場やサッカースタジアム、ラグビー場に行くと酸素がどんどん身体に入っていく感じがする。オープンエア(屋外)のスタジアムで呼吸がしやすいのは、芝生の青い香りのせいなのか? それとも常に風を感じることができるからか? そこは人工芝のドーム球場と明らかな差を感じる。

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