横浜DeNAベイスターズが巨人との3位争いを制し、2年連続のクライマックスシリーズ(CS)進出を決めた。このゲームに勝てば3位が確定する10月1日の広島戦(横浜スタジアム)は、今シーズンの横浜の野球を象徴する豪快な戦いぶりだった。
横浜DeNAベイスターズが2年連続のクライマックスシリーズ(CS)進出。豪快な戦いぶりを実現したラミレス監督の采配とは? (c)liorpt-123RF
初回に3番ロペスの2ランホームラン(30号)と4番筒香のソロホームラン(27号)、8番ウィーランド(ピッチャー)のタイムリーヒットで4点を先制した横浜だったが、2回3回に2点3点と広島に得点を与え、4対5とあっさり逆転されてしまう。
しかし、点の取り合いなら横浜も負けてはいない。3回裏にはまたまたピッチャーのウィーランドがランナーを2人置いて、今シーズンの自身3号となるスリーランホームランを叩き込む。これで7対5と横浜が逆転する。
しかし、広島も強力な打線で優勝を決めたチーム。5回に1番田中が2ランホームラン(8号)を打って7対7の同点に追いつく。試合は、スリリングな打ち合いとなった。
ただ、ここからは「どうしてもCSに出たい」という横浜ナインの気持ちが広島を上回っていたのだろう。5回裏に筒香のこの日2本目となるホームラン(28号)が飛び出すと、9番倉本もタイムリーを放ち、この回2点。6回には2番梶谷のホームラン(20号)をきっかけに、さらに2点を追加。8回にも2点を取って13対7で広島を突き放した。
「8番にピッチャー」「スモールベースボールはやらない」
今シーズンに横浜のラミレス監督がこだわってきたのは、ピッチャーを8番に置く打順だ。この打順を決めるきっかけになったのは、この日も3打数3安打4打点と野手顔負けの打撃を見せたウィーランドの存在がある。ここまでの打率も2割2分9厘と下位打線の打者と変わりない成績を残している。このウィーランドのバッティングを生かすにはどうしたらよいのか…という発想で生まれたのが8番にピッチャーを置く打順だった。
しかし、ほとんどの野球解説者はこれに否定的だった。これにはちゃんとした論理がある。セオリーを考えれば9番打者より8番のほうがゲームの中で、わずかであっても打席が回ってくる確率が高い。それならば一般的に打率が低いピッチャーを9番に置いて、1番から8番までに野手を置く方が常識的な配置ということになるだろう。
こうした考え方を根拠として、「8番ピッチャー」という打順に異を唱える解説者のコメントを今シーズンは何度も聞いた。しかし、ラミレス監督はこの意見に流されることはなかった。
「いろいろな意見があるのは分かっている。でも私はこれが正しいと信じている」
ラミレス監督が徹底したことは他にもある。「うちはスモールベースボールはやらない」と言い切る通り、盗塁や送りバント(犠打)が極端に少ない戦い方をしている。盗塁はセ・リーグ最少の39個。トップの広島は112個も走っている。また犠打もこれまたセ・リーグ最少の84個。最多の広島は116個記録している(上記は10月2日現在)。
こうした戦術の違いは、レギュラー陣の顔ぶれと各選手の能力によって決まるものではあるが、ラミレス監督の野球はとにかく選手の力を信じて自由に打たすことに徹してきたのだ。
監督は選手時代の守備位置から練習を見る
セ・リーグ、パ・リーグを問わず、それぞれの監督には好む野球のスタイルがある。それは主に選手時代にどこを守って、どんな打順を打っていたかに由来することが多い。試合前の練習を監督がどこで見ているかに気を留めると面白いことに気が付かされる。
多くの監督が自分の守っていた守備位置や試合前に練習をしていた場所から自軍の練習を眺めているのだ。外野手だった広島の緒方監督は外野に立って練習を見ている。日本ハムの栗山監督もすぐに外野に行って、そこから練習を眺めている。栗山監督も選手時代は外野手だ。
ピッチャーは試合前にセンターに集まってランニングをしたりキャッチボールをしたりする。ソフトバンクの工藤監督は、いつでもそこに行ってピッチャーたちの様子を見ている。中日の森監督も投手陣のいる外野にいることが多い。工藤監督も森監督も素晴らしい投手だった。
西武の名内野手だった辻監督は、内野手の後ろに立って打者のバッティング練習を見ていることが多い。キャッチャー出身の楽天の梨田監督やロッテの伊東監督は、練習中もホームベース付近を離れることがない。
つまりそれぞれの監督は、自分のポジションから自身の野球観を作り出し、時々そのポジションに立つことで選手時代の感覚を思い出しているのだろう。
グランドでは選手の自主性に任せる
では、横浜のラミレス監督はどうか?
内野も外野も守ったラミレス監督だが、常にクリーンアップを打ってきた打撃の人だけに、やはり打者のバッティングを見るのが好きなのだろう。バッティングケージの後ろから練習を見ていることが多いが、実は彼が一番好む場所はベンチ裏のチームエリアだ。そこでゲームに関係するあらゆるデータを確認している。
それは現役時代から変わらないスタイルだ。選手時代に親しまれた彼のパフォーマンス「カトちゃんぺッ」や「ゲッツ」も、テレビを何度も見たうえでの研究成果だ。ベネズエラ出身のラミレス監督は英語が母国語ではない。しかし、彼の早口の英語を聞いても頭の回転の速さが伝わってくる。
競馬で言えば一見「馬なり」(馬の走る気に任せること)の野球のように映るが、その選手を送り出すまでにはデータを分析して、活躍の可能性が高い選手を大胆に起用する。そして送り出した以上は細かいことを言わず、選手の自主性に任せた野球を展開する。それはきっとラミレス監督自身が選手時代から求めていたスタイルだったのだろう。
先の広島戦では、先発ローテンション投手の井納が中継ぎでマウンドに上がった。何が何でもこの試合でCSを決めるというスクランブル登板だ。その井納がCSを見据えて言った。
「ここからは一発勝負。任された場所でプライドを持ってやりたい」
どんなチームやグループでも自分たちのスタイルをしっかりと自覚して、そこにプライドを持っている組織が強い。常に変わらない自分たちのスタイルで戦い抜く。ラミレス監督が横浜にもたらしたものは選手たちの自信だ。
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