陸上競技男子100メートル。長きに渡り日本人選手に立ちはだかっていた厚い壁がついに破れた。
9月9日、福井県営陸上競技場で行われた日本学生陸上競技対校選手権大会(日本インカレ)。100メートル決勝で東洋大学の桐生祥秀選手が日本人選手としては初の9秒台となる【9秒98】を叩き出して優勝した。

追い風1.8メートル。トラックも改修を終えたばかりの高速レーン。条件は整っていた。しかし、そんなことを書くのは野暮の極みだろう。
どんな好条件下でも、これまで日本人選手で公式に10秒の壁を破った選手はいなかった。世界初の9秒台は1968年のジム・ハインズの9秒9(手動計時)。これに遅れること49年。体格的にも骨格的にも日本人には不利と言われてきたこの種目で、とうとう9秒台で走る選手が現れたのだ。
身長176センチの桐生。言うまでもないが体格的には決して大きくない。というか、この種目においては小柄とさえ言える身体だ。9秒58の世界記録を持つウサイン・ボルト(ジャマイカ)の身長は195センチである。
そんな桐生が9秒台の記録を持つ世界的スプリンターの仲間入りを果たせたのは、世界トップレベルの高速ピッチ(脚の回転)があるからだ。桐生のピッチは1秒間に5回を数えるが、それはボルトの4.48回を上回っている。
また理論上は最高速が秒速11.60メートルに達していないと10秒の壁は破れないそうだが、桐生はこれまでのレースでこれを上回るスピードを見せていた。
2年前(2015年)には追い風参考ながらアメリカの競技会で9秒87という驚異的なタイムも出していた。つまり桐生は、いつ9秒台を出してもおかしくない選手だったのだ。
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