「自分でもびっくりした」

 6球目の直球(157キロ)を打ったゴンザレスの打球は、大谷の右サイドを抜けようとする当たりだった。大谷は、この打球に右手を出して素手で捕ろうしたのだ。手に当たった打球は、勢いを失い3塁手がこれをさばいてアウトにした。心配したソーシア監督もすぐにベンチを飛び出したが、大谷は打球を受けた右手でこれを制止して、「大丈夫!」とアピールした。

 故障が癒えた復帰登板で、恐れることなく右手を出して素手で打球を取りにいく。

 「あまり手を出したことはなかったので、自分でもびっくりした。(手を)出さないという判断は、あの一瞬では難しい」

 打球の強さにもよるが、投手は基本的にはボールを投げる手を出してはいけない。当たり前のことだが、ケガをする可能性が高いからだ。事実、大谷はこのプレーで薬指の付け根を打撲している。

 何をか言わんや……であるが、これが大谷翔平の本質なのだ。

 思えば、二刀流(投打両方で活躍を目指す)以上に貪欲な態度はほかにみあたらない。野球に対して、これほど攻撃的な姿勢はない。誰よりも好戦的であることがこのプレースタイルを叶えているのだ。だからそんな大谷に、力をセーブして要領よく投げることを勧めても無理な話なのかもしれない。それでは大谷翔平が大谷翔平でなくなってしまうのだろう。

 大谷翔平は、どんなことでも手を抜くことはない。復帰登板は、それを感じることができるマウンドだった。あふれ出る闘志。それが二刀流を支える原点なのだ。

 と、ここまでが復帰を祝して書いた原稿だ。もう懸念や不安と言っていても仕方がない。手術をするのかしないのか、いやもはや「いつ受けるか」という時期の問題だろう。その後も、大谷は打者として試合に出続けているが、新たな故障についてはまだ何も語っていない。しかし、彼のバットは、誰よりも雄弁に今の思いを語っている。日本時間6日のアストロス戦では、4打数4安打2本塁打1盗塁と躍動して見せた。

 そんな大谷について、ソーシア監督はこんなコメントを寄せている。

 「彼は前へ進み続けている。残念なニュースはあったが、彼はプレーを望んでいる。2本塁打に盗塁、すばらしい試合だった。タフな男で、挑戦することを理解している。この先の決断について考えるのではなく、打者として打つことにフォーカスしていた」

 たとえ投げられなくても、その時は、打者として貢献する。これも見事な二刀流だ。

 最悪の報に接しても、大谷の野球への姿勢に変わりはない。それどころか、その態度は、より鮮明になった気がする。彼は、どんな状況に置かれても決して戦うことをやめない。そのすごさとすばらしさを、私たちは今、彼のプレーに見ているのだ。

 やっぱり大谷は、どこまでも好戦的な男だ。

(=敬称略)