プロ野球、パ・リーグの優勝争いががぜん面白くなっている。
春から首位を独走してきた楽天をソフトバンクがついに捉え1位に躍り出たが、楽天もこのままその座を譲る気配はない。ケガで戦列を離れていたリードオフマンの茂木栄五郎もチームに戻り、1番打者としてはつらつとしたプレーを見せている。ソフトバンクも主砲の内川聖一や投手陣の柱である和田毅が不在で、決して万全の態勢というわけではない。楽天との首位争いはシーズン終盤まで続いていくことだろう。
しかし、ここに来てこの両チームの争いに割って入る存在が現れた。3位の埼玉西武ライオンズである。
パ・リーグの優勝争いを13連勝で盛り上げる西武ライオンズの強さは、スキのない走塁の徹底にある。(©cd123-123RF)
チームとしては59年振りの13連勝。残念ながら8月5日のソフトバンク戦(メットライフドーム)に敗れて球団記録に並ぶ14連勝はならなかったが、後半戦に入って怒涛の追い上げを見せている。8月5日現在、首位ソフトバンクと6.5ゲーム差まで詰め寄ってきた。(以下、文中の記録は5日終了時点)
ラジオの解説があって連勝が止まったソフトバンク戦を放送席から観ていたが、負けはしたもののこのゲームは今シーズンのライオンズを象徴するような戦いぶりだった。
先発投手は、ソフトバンクが千賀滉大(9勝2敗)、西武が多和田真三郎(3勝2敗)だった。ゲームの主導権を奪ったのは、ソフトバンクだった。4回に中村晃の2点タイムリーを足場に4点を先制。5回にも押し出して1点を追加。7回には代打の川島慶三が2ランホームランを叩き込み、8回を終わって7対3とソフトバンクがリードしていた。
ここまで13連勝と勢いに乗っている西武だったが、残り1イニングで4点差はさすがに厳しい。ここで連勝は止まり、ソフトバンクがあっさり勝つものだと思っていた。
スキのない走塁が徹底されている西武
ところがここからの西武の追い上げが凄かった。先頭の9番金子侑司がセンター前ヒットで出塁すると、1番秋山翔吾もレフトオーバーの2塁打で続く。2番源田壮亮が四球を選ぶとノーアウト満塁のチャンス。この後3番浅村栄斗、4番中村剛也、6番山川穂高がヒットを放ち、気が付けば9回に4点を奪い7対7の同点にしてしまった。
ゲームは延長戦にもつれ込み、10回ソフトバンク松田宣浩のタイムリーヒットが決勝点となり8対7でソフトバンクが勝ったが、西武の粘りも見事だった。劣勢の中でも負けないソフトバンクの底力もすごかったが、最終回に4点を取って同点にする西武の諦めない姿勢も驚異だった。
西武の強さはどこにあるのか。それはもちろん選手個々の活躍にあることは言うまでもない。
1番を打つ秋山はパ・リーグの首位打者であり、2番を打つ源田は新人でありながら盗塁王争いを続けている。3番の浅村はチャンスに滅法強く、この日も4打点をあげている。「おかわり君」こと中村剛也のホームラン(24本)も脅威なら、山川も勝負強いバッティングを見せている。投手陣では菊池雄星の安定感(11勝4敗)がチームの落ち着きを作っている。この他にも投打に名前を挙げるべき選手は数多くいるが、本稿で強調したいテーマはそこではない。
それはチームで共有する姿勢のようなものだ。このソフトバンク戦でこんなシーンがあった。まず1回裏の秋山の走塁。1アウトで2塁に秋山がいた。3番浅村の当たりは三遊間のゴロ。これをショートの今宮健太が捕って1塁に送球する間に、秋山が3塁に進んでいたのだ。
今度は3回裏の岡田雅利の走塁。キャッチャーの岡田は決して足が速い方ではない。それでも1番秋山のセンターフライでタッチアップして、2塁から3塁を奪ったのだ。センターの柳田悠岐は強肩の持ち主。しかし、そのフライを背走して補球しているのを岡田は見逃さなかった。その態勢からはすぐに送球できない。
「やるべきことをきちんとやっていく」
秋山の走塁も岡田のタッチアップも間一髪セーフ。ぎりぎりの判断で成功させたプレーだ。これはチームとして「少しでも先の塁を狙おう」という考え方が共有されていないと仕掛けられない走塁だ。個人の判断だけで狙うには、勇気のいるタイミング。失敗を考えると自重するケースの方が多いだろう。
この走塁はいずれも得点に絡むことはなかったが、西武が少しでもスキがあれば前の塁に進もうとしていることは確かだった。その考え方がチームとして共有されている。そうしたことの積み重ねが西武を簡単に負けないチームにさせている。
思い出すのは、1987年の西武対巨人の日本シリーズ第6戦だ。1塁ランナーの辻発彦(現ライオンズ監督)が秋山幸二のセンター前ヒットの間に、中堅手クロマティーの緩慢な守備のスキを突いて1塁から一気にホームを陥れた。この得点でダメを押した西武が巨人を破って日本一に輝いた。野球ファンにとっては伝説のプレーだ。
開幕直後に辻監督に会ったときに言っていた。
「チームも個人もやるべきことをきちんとやっていく。野球で勝つにはそれしかないんだよ」
西武の盗塁数は12球団1位の85個。ここにも走る西武が徹底されている。
どんな仕事でも、守らなければいけない小事がある。忘れてはいけない基本がある。小さなことが大きな綻びを生むこともあれば、些細なことが大きなチャンスに膨らむこともある。大切なことはいかなるときも積極性を失わずに、少しでも前進しようという姿勢を持ち続けることだろう。
個々の選手の破壊力が物を言うプロ野球の世界だが、一瞬のスキを突く西武の野球は相手にとって嫌な存在になっている。
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