その米メジャーリーグの報道を知って「やっぱり!」と思った。(ダルビッシュがドジャースにトレードされた一件ではない)
7月26日(日本時間27日)のレンジャーズ対マーリンズの一戦。3年ぶりとなるダルビッシュ対イチローの対決を朝からテレビで観ていた。舞台はレンジャーズの本拠地テキサス州アーリントン。20年ほど前に行ったことがあるが、とんでもなく暑いところだった。この日も試合開始前の気温が36度だったと実況のアナウンサーが紹介していた。
7月26日(日本時間27日)のレンジャーズ対マーリンズで先発したダルビッシュ。4回途中まで投げて10失点と、あまりにも打たれ過ぎ?(ZUMA Press/アフロ)
初回から打ち込まれるダルビッシュ。結局この試合は、4回途中まで投げて10失点。暑さの影響もあるのかと思ったが、問題は別のところにあったようだ。
まずは、試合内容を少しだけ振り返っておこう。1回の表のマウンド。ダルビッシュは先頭のゴードンにいきなりホームランを打たれる。続く強打者スタントンは三振に仕留めたものの、3番のイエニッチにもこれまたセンターオーバーのホームランを許す。打たれたボールはいずれもフォーシーム(直球)だった。
2回は3者凡退。3回も無失点。火だるまになるのは4回だった。この回の先頭打者の4番オズナに2塁打を許すと、5番のリアルミュートにもレフト前に運ばれる。ここで迎えたのが6番イチロー。スライダーを捉えたイチローの打球は右中間へのエンタイトル2ベース(打球がワンバウンドしてスタンドに入る)。続くディートリッチもセンター前ヒット。なんとここまで4連打である。
8番デリス(三振)、9番アービレイス(センターフライ)は倒れたものの、マーリンズの攻撃はまだ終わらない。1番のゴードンがライト前ヒット。2番のスタントンがセンター前ヒット。3番のイエニッチが四球。4番のオズナがセンターオーバーの3塁打。さすがのダルビッシュもここで交代となった。
投球モーションのクセで球種がバレていた
プロの投手なら、どんなレベルの投手でもこれだけの連打を食らうことは滅多にない。フォーシームはもちろんスライダーにも各打者のタイミングがぴったり合っている。ダルビッシュの調子も決して良いとは言えない状態だったが、何だかおかしいな~と感じていたのだ。もしかしてサインがバレている?
事実は違った。このときマーリンズの各打者はダルビッシュの「クセ」を知っていたのだ。試合から数日後のことだった。アメリカのスポーツサイト「ヤフースポーツ」の記者がマーリンズのスカウトの証言としてクセの存在をツイッターで紹介したのだ。
具体的には「ストレート系のボールを投げるときは、変化球系に比べてグラブが長く止まる」とのこと。
早速、試合のビデオを何度か見返してみた。グラブが止まる瞬間がどこなのかは分からないが、私の見立てでは体の前にボールとグラブをセットして投げるときに(ダルビッシュはランナーがいなくてもセットポジションで投げる)、右手が少しだけ長くグラブの中に留まっているように見えた。テレビの映像で当方も予想してみたが7割くらい当たる。
報じられたクセがそこなのかどうかは分からないが、ダルビッシュがあんなに簡単に打たれてしまうのは、やはりクセが分かっていたからなのだ。
この日ダルビッシュは22人の打者を相手にして、ホームラン2本を含む9安打を許し四球を2個与えている。つまり11人に打たれるか出塁されている。出塁率5割。クセで球種が分かれば、プロのバッターはそのくらい打つ。
逆に言えばこの結果は、明らかにクセが分かっていたときの数字だともいえるだろう。そうでなければこんなに打たれない。
相手のクセが分かれば精神面でも優位に
すべての打者がクセを頼りに打っていたかどうかは分からない。しかしクセが分かっているという状況は、相手にとって明らかなアドバンテージだ。精神的にも優位に戦うことができる。
そして各打者が簡単にヒットを打ち続ければ、マウンド上の投手は疑心暗鬼に陥っていく。この日のダルビッシュも途中から「なぜ?」と何度も首をひねっていた。
ビジネスにおけるスパイ活動を推奨したり、これを面白がったりしている訳ではない。クセの発見は、相手に対する研究の成果だ。何としても突破口を見出したい。そんな思いがもたらす野球ならではの情報だ。
どんなことでも相手や対象を研究して、傾向やアドバンテージを手にしたいと願うことは悪いことではないだろう。またそうした準備や姿勢が、大事な場面で自信や落ち着きをもたらしてくれる。
一方ダルビッシュの立場になれば、どんな実力者にも思わぬクセがあり、「改善のポイントはまだまだある」ということか。ビデオで自身のクセを確認したダルビッシュは、「この情報をシェアしてくれてありがとう」と前述の記者に感謝の言葉をつぶやいた。
これでダルビッシュがマウンドで炎上した謎はすべてクリアになったのだが、どうしても分からないのはマーリンズのスカウトがなぜ自軍の「飯のタネ」を暴露してしまったのかと言うことだ。
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