脱力に勝るパワーなし!
 脱力が引き出す全力。
 脱力しているのに全力が出る。

 まるで禅問答のような力関係だが、身体を使うこと、とりわけスポーツにおいてはこれが真理だろう。力が抜ければ合理的な動きが叶う。逆に言えばどこかにストレスがあると、あるいは妙な意識が働くと、私たちの身体は合理的に動いてくれない。しかも、うまく脱力することは結構難しいのだ。

野球も仕事もベストのパフォーマンスを出すには「脱力」の使いこなしが肝要だ。(©Wang Tom-123RF)
野球も仕事もベストのパフォーマンスを出すには「脱力」の使いこなしが肝要だ。(©Wang Tom-123RF)

 そんなことを考えたのは、プロ野球ソフトバンクの武田翔太投手の新たな投法(コンセプト)を聞いたからだ。

 今シーズン、武田は悩んでいた。いや、まだ悩んでいると言った方が良いのかもしれない。と言うのも、去年14勝を挙げたピッチャーが、今シーズンはまだ2勝に留まっているからだ。

 原因ははっきりしていた。今春、シーズン開幕前に開催されたワールドベースボールクラシック(WBC)。日本代表に招集された武田は、この戦いで右肩を痛めていた。先発のマウンドに戻って来られたのは6月下旬になってからだった。それでも肩をかばう意識が働いて、バランスよく投げることができない。

 本人曰く、上半身と下半身のタイミングが合わない。つまり身体を連動させて流れるように投げられない状態になっていたのだ。その状態を武田は「思い通りに投げられない」と評した。

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