「正直悩んでいます」

 37歳になった松坂だが、今回の球宴はファン投票1位で選出されていた。それでも今の松坂にとってそれは、純粋な喜びだけで投げられるものではなかった。39万4704票というぶっちぎりの票数で選ばれた時点で、彼はこう話している。

 

 「びっくりするような数の票を入れていただいた。その期待に応えたいけど、どうやって投げようか、正直悩んでいます」

 前半戦は、7試合に登板し3勝3敗、防御率2.41。それほど悪い成績ではないが、以前のように時速150キロ台のボールを連発するようなことはない。というより明らかに球威はなくなっている。それでもファンは、松坂のピッチングを楽しみに待っている。

 どうするか?

 彼が出した結論は、すべてストレート系のボールで勝負する逃げないピッチングだった。ところがそのボールはまったく通用せず、1回に30球を要し、まさかの5失点で撃沈することになってしまったのだ。

 しかし、松坂はどんなに打たれても下を向くことはなかった。もちろんオールスターゲームなので、レギュラーシーズンより気楽に投げられる部分はあるだろう。お祭りムードの中で、対戦する打者との駆け引きを楽しめるのは、出場する選手の特権だ。それでも、ここまで打たれると悔しくないはずがない。しかも、1イニングに2本のホームランを浴びる。それは信じたくもない結果だったことだろう。

 ただ、そんな松坂を見ていて、何かとても吹っ切れているような感じを覚えた。もう怪物ではない自分を自覚している…そんな感じの落ち着きだった。それはある種の強さでもあった。そして、試合後の彼のコメントを聞いて納得した。

 「宣言通り、直球系で勝負にいって、見事に返り討ちに遭いました。真っ向勝負するには難しい球でした。あらためて緩急の大事さが分かりました。悔しさというより、パ・リーグの打者のスイングはすごいなと感じさせられました」