重量級の柔道選手を軽々と持ち上げた白鵬

 もう20年以上前のことになるが、当方も相撲部屋に一日体験入門したことがある。元大関の朝潮が親方を務めていた当時の若松部屋である。雑誌の取材で相撲部屋の一日を報告するノンフィクションを書いたのだが、この体験は強烈だった。と言うのも相撲部屋を知ろうということで、若い力士とまったく同じような一日を過ごしたからだ。

 前日の夕方に部屋を訪れると、翌日までそのまま入門状態である。大広間で若手と一緒に過ごし、わずかばかりのスペースに布団を敷いて寝る。朝は4時には起床して、朝稽古にやってくる先輩力士の「まわし」を準備して待っている。稽古は5時半から始まった。関取(十両以上の力士)が稽古にやってくるのは、7時過ぎくらいからだ。その前に当番の若手は稽古を終えて、風呂を沸かし、「ちゃんこ(食事)」の準備に奔走する。なにか手違いがあったら、大変なことになる。

 この時、当方も「四股」や「テッポウ」「すり足」、そして「ぶつかり稽古」で先輩力士に稽古をつけてもらったが、まったく歯が立たなかった。何度ぶつかっても、相手は微動だにしない。これでも元プロ野球選手。30代の後半とはいえ、まだまだ体力的には自信のあったころである。

 果たして柔道の面々はどうだったのだろうか?

 重量級の選手に胸を貸した白鵬は、彼らを受け止めると押し込まれることもなく、軽々と土俵の外に持ち上げたそうだ。これは経験上、当方にも想像がつくことだった。原沢選手が「人生で初めてあんなに軽々と持ち上げられた」と話せば、ウルフ選手も「半端じゃなかった」と白鵬の圧力に脱帽した。

 とにかく力士の身体は重い。実際の体重の重さもあるが、それ以上に彼らは日々の稽古を通じて、足に根が生えているかのように土俵をつかまえる。鍛えられた下半身。普通の人が押しても、まったく動くことはない。その重さは、まさに岩を押すような感覚である。

 胸を貸した白鵬も「お互いにいい経験になる。大記録がかかっている場所前に元気をもらった」と彼らの訪問に感謝した。白鵬は名古屋場所で、魁皇の歴代最多となる通算1047勝の記録更新を狙っている。

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