チームの団結という点では、ポーランド戦で6人の選手を入れ替えて起用したことも大きかったと思う。この交代を無謀なギャンブルと批判する声もあったが、チームマネジメントの観点で言えば、絶妙かつ必要な戦い方だと思った。

控え組にも配慮、不満分子を作らない

 3戦目を迎えたチームにとって、密かに忍び寄っていた危険は、試合に出ていない選手たちの不満がたまることだった。控え組と言っても、それぞれの選手たちは所属クラブのレギュラーであり、彼らにもプライドがある。いくら「フォア・ザ・チーム」で戦っていても、ストレスがたまるのは選手の本能だ。

 どこかでこのエネルギーを使って、新たな戦いを挑む必要がある。槙野智章(浦和)や酒井高徳(ハンブルガーSV)、武藤嘉紀(マインツ)らの起用は、彼らにたまっていた鬱憤を戦力化した戦術であり、不満分子を作らない西野采配の妙という気がした。

 西野監督が選手だけでなく周囲の人たちをも引き込む魅力は、彼がユーモアのセンスに溢れているからだろう。

 フィジカルに勝るセネガルとの一戦の前には、記者会見でこんなジョークを飛ばしている。「乾貴士(ベティス)と大島僚太(川崎)に5キロの増量と身長を5センチ伸ばすように命じたのですが、調整に失敗しました」

 またポーランド戦を0対1で負けたまま逃げ切った試合の後には、「最後の10分は走っていないので、次の試合でお返しします」

 大事な場面に臨んでも、常に余裕があるというか、西野監督のとぼけた雰囲気がチームを明るくし、選手を緊張から解放していた。リーダーの振る舞いは、良い意味でも悪い意味でも、選手たちに伝染する。その点、西野監督の自然な態度は、選手たちをリラックスさせる方に機能していたと思う。

 W杯まで2カ月というタイミングでチームを引き受けた西野監督。その短期間でのベスト16は、評価されるべき結果だろう。彼のやったことを整理すると次のようなことが見えてくる。

  • ベテランの活用(経験の共有)
  • 積極的にコミュニケーションを図る(情報量とスピードのアップ)
  • 不満分子を作らない(全戦力の投入)
  • ユーモアを忘れない(監督の姿勢がチームの雰囲気を作る)

 ポーランド戦の最後10分は、批判を覚悟で自陣でのボール回しに徹した。
これを批判する人は好きなように叩けばいい。しかし、私は立派な決断だと思っている。自身への批判を引き受けて、西野監督が優先したのは、全体の利益だ。

 それが「語るべきは理想 やるべきは現実」の真意だ。

 決勝トーナメントでベルギーに負けた瞬間、ピッチに倒れ込んだ選手たち。そしてみんな動けなくなった。代表チームの最後のミーティングで、西野監督は言ったそうだ。

 「ベルギー戦が終わった後の、倒れ込んで背中に感じた芝生の感触。それで見上げた空の色だか、感じだか、それは忘れるな」

 兵どもはそれぞれの所属に戻り、西野朗監督の監督退任(7月末)が発表された。この潔い去り方も、優れたリーダーが持つべき資質か。

 夏草や兵どもが夢の跡・・・芭蕉の思いが偲ばれる。

 気がつけば梅雨も明けて夏が来ている。今度は私たちが頑張る番だ。

 (=敬称略)