プロ野球で2000本安打を達成した打撃の匠を「素直な性格で打ってきた人」と言っては失礼だろうが、それは覚悟のうえだ。

 現役生活22年。中日ドラゴンズの荒木雅博選手(39歳)が、6月3日の楽天戦で史上48人目となる2000本安打を記録した。ホームラン33本は2000本達成者の中で最少ならば、シーズンで一度も二桁本塁打を記録していないのも荒木だけである。

2000本安打を記録しても「まだ打撃には自信がない」と中日・荒木選手。長所の守りと足を伸ばす中日の環境にも救われたとか。(©amanemark-123RF)
2000本安打を記録しても「まだ打撃には自信がない」と中日・荒木選手。長所の守りと足を伸ばす中日の環境にも救われたとか。(©amanemark-123RF)

 荒木に会ったのは、2000本まであと10本と迫った横浜スタジアムだった。「トラ(後述)、もうすぐだね」と声を掛けると、いつもの柔らかい笑顔が返ってきた。

 「ここまで来るのは本当に大変でしたから、残り(10本)は1本1本味わいながら打ちたいと思います(笑)」

 彼の言う「ここまで来るのは本当に大変でしたから…」をひと言で表現すれば、若い頃はまったく打てない選手だったのだ。内外野の守りは上手く、足も速いのだが、非力でバッティングがさっぱり。

 1995年にドラフト1位で熊本工高から入団したものの、その後5年間で打ったヒットはわずかに15本。途中、足を活かすためにスイッチヒッターにも挑戦したが、結局芽が出なかった。

 それでも彼が二塁手として出場のチャンスをつかんだのは、守備範囲の広い鉄壁の守りとベンチの方針(サイン)を確実に遂行するチームバッティングに徹してきたからだ。

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