ロシアW杯での活躍が期待される長友佑都選手(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
スポーツの話題と言えばスポーツでの出来事なのだが、これは批判的な意見をどう受け止めるかというか、ある種のコミュニケーション術のサンプルのような気がした。サッカーワールドカップ(W杯)日本代表、長友佑都選手(31歳、ガラタサライ)の発したツイートをめぐる顛末である。
長友選手は、5月31日の夜に次のようにつぶやいた。
「年齢で物事を判断する人はサッカーを知らない人。」
これには多くの人が批判に回った。
- 「結果を出してから言え」
- 「長友選手みたいな影響力がある選手がこんな発言をするべきじゃないと思います」
- 「じゃー、サッカー知ってる奴だけ応援すれば良いのか?」
長友選手の発言には、もちろんそれを生む経緯がある。最大の理由は、やはり今回のメンバー選考だ。
日本代表・西野朗監督が31日夕方に都内ホテルでロシア大会に臨む日本代表メンバー(23人)を発表した。
このメンバーに付けられた名前がまずもって気に入らなかったのだろう。メディアが命名したのは、「おじさんジャパン」や「忖度ジャパン」など。この時点で選手の平均年齢は、過去最高の28.3歳。しかも前回2014年ブラジル大会の経験者が11人も選ばれている。
毎回、秘密兵器的な選手の選考もあって、そこに監督の考え方や打ち出す戦術が見えたりして注目が集まったりするのだが、今回はサプライズ的な人選もまったくなかった。そのメンバーを「驚くほどサプライズがなかった」と評したメディアもあったが、実績のあるベテランを軸に安定した布陣を選んだというのが、今回のメンバーに対する一般的な評価だろう。
こんなことをするとまた長友選手に怒られてしまいそうだが、今回の日本代表には、30代の選手が8人もいる(敬称略)。
■GK(ゴールキーパー)
- 川島永嗣(35歳 メッス)
- 東口順昭(32歳 G大阪)
■DF(ディフェンダー)MF(ミッドフィルダー)FW(フォワード)
- 長友佑都(31歳 ガラタサライ)
- 槙野智章(31歳 浦和)
- 長谷部誠(34歳 フランクフルト)
- 本田圭佑(31歳 パチューカ)
- 岡崎慎司(32歳 レスター)
- 乾貴士(6月2日に30歳になった ベティス)
ちなみに香川真司選手(ドルトムント)と吉田麻也選手(サウザンプトン)の両選手も30代間近の29歳である。
「おじさんジャパン」は、もちろんこうしたメンバー構成を揶揄するところもあって命名されたものだが、そうした評価に同調するサポーターに向かって発せられた反論が先の長友選手のツイートである。
誰よりも身体を鍛え続け、30代にしてまだ衰えぬ体力と走力を維持している長友選手からすると、単純に年齢だけでその能力を測られることへの怒りを我慢できなかったのだろう。ヨガを取り入れた長友選手独自のトレーニング方法は、本になって出版されるほどのクオリティーであり、代表チーム内でもすっかり定着している。長友選手は、いわば若い身体作りの「トレーニング番長」なのだ。だから余計に、加齢だけで戦力評価される論調に腹が立っていたのだろう。
しかし、「おじさんジャパン」と平均年齢の高さを危惧する声にも一理ある。若い人の参入は、チームを活気付けるとともに、次世代強化への布石にもなる。その視点を失って安定感のあるベテランだけで戦っても、近視眼的なチーム作りでその国のサッカーに未来はない。伸び盛りの新鋭には未知の可能性がある。また対戦相手にも研究されていない。適度に若手を使うのも大事な要素であり、重要な戦略と言えるだろう。
ただ、私はこの「おじさんジャパン」をめぐる論争に首を突っ込むつもりはない。どちらの言い分にもそれなりの根拠があるからだ。
批判への対応とサッカーの共通点
それよりもここで私が取り上げたいのは、このツイートの後に長友選手がとった対応の妙についてだ。直前合宿先のオーストリアで記者に囲まれた長友選手は、この件について聞かれ次のように答えたのだ。
「意見はいろいろ出る。結果が出ていない中で、批判は普通。僕は全然気にしていない」と、沸き上がった批判を一切引き受けたのだ。
そして、「これからも僕が、炎上隊長として…(やっていく)」と言って、記者たちを笑わせたというのだ。
残念ながらその場に居合わせた訳ではないが、その話を聞いて私は「これでチームが出来上がった」と思った。香川選手や原口元気選手(27歳、デュッセルドルフ)も長友選手のツイートに賛同して、こうしたネガティブな意見を成績で見返してやろうと話しているそうだ。長友選手の思いが、ツイートによってチーム内で共有されているのだ。これが「チームが出来上がった」という私なりの理由だ。
もちろんそんなことだけで勝てるほど、W杯は甘いところではない。今度は私に「長友選手の対応だけで判断する人はサッカーを知らない人」という批判が飛んでくることだろう。「勝てる」なんて言うつもりはない。ただ、チームが一丸となって動き出した。戦う態勢が整った。その状態を「これでチームが出来上がった」と言いたいのだ。
ハリルホジッチ前監督の時には、縦に速い攻め方と、「デュアル」と呼ばれた1対1に強い攻撃的な姿勢が求められた。後を受けた西野監督は、柔軟なボール保持を認め、ポゼッションを高めて攻撃のチャンスを狙うという臨機応変な戦術を標榜している。
批判的な声にすぐさま反応して、縦に攻撃的な声を打ち込むのではなく、奪ったボールをいったんしっかりと足元に収めて、全体で連動しながらビルドアップしていく。いかなる展開になっても、慌てることなく冷静にゲームを進める。長友選手の対応に、西野ジャパンのスタイルを見たような気がするのだ。
ベテラン軍団を揶揄されて怒った長友選手だが、彼の見せた余裕の応対はまさに経験豊富なベテランのそれである。
その長友的態度を、各選手が試合で生かせるか? 「おじさん」には、「おじさん」の戦い方がある。
コロンビア(6月19日)、セネガル(24日)、ポーランド(28日)と続く強豪との対戦は、炎上にも似たピンチの連続だろう。そんな中で「炎上隊長」とその状況を冷静に楽しめる感覚の有無が、「おじさんジャパン」を見返す大事な要素になるだろう。
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