大谷が二刀流というチャレンジをやってのけられる理由には、投打の才能以外に、彼が金銭的なことにまったく頓着していない…ということも大きな要因として考えるべきだろう。

金銭に振り回されず渡米

 大リーグへの挑戦を表明したのは、岩手県・花巻東高校3年生の時だった。この時にそのまま米国に渡っていたら、今のレベルで二刀流が成り立っていたかどうかは疑問だが、彼はかねてからの夢を優先しようとした。

 エンゼルスに移った今回もそうだ。新しく結ばれた労使協定によって、25歳未満の大谷の年俸は約6000万円。契約の総額は2億6000万円くらいだと言われている。しかし、もし渡米を数年遅らせて年齢制限をクリアすれば、おそらく今回の50~100倍、100億円を超える大型契約も夢ではなかったはずだ(もちろん日本での活躍次第だが…)。

 それでも彼は、自分の行くべき場所とタイミングを見失わなかった。

 それは、彼が金銭的な理由で動いて(決断して)いなかったからだろう。だからこそ、誰よりも野球とピュアに向き合うことができる。二刀流は、もちろん才能があってこその贅沢なチャレンジだが、これを自身の生き方と心の贅沢として楽しめる感性が大谷にあったからこそ、批判にも負けずブレることなく貫くことができたのだ。

 「好きこそ物の上手なれ」は、どんな仕事でもプロになる者の基本中の基本というべき姿勢だろう。好きでなければ、不断の努力も覚束ない。しかし、その一方で、「好き」だけでは如何ともしがたい才能の群れが待っているのも、これまたプロの世界だ。二刀流も「好き」だけでやれるほど甘いものではない。失敗することもあり得る。

 大谷は、大リーグに移るに当たって、関係者にこう言い残していったという。

 「たとえ失敗しても二刀流に挑戦することに意味がある」

 大谷のチャレンジは、まだ始まったばかりだ。しかし、午前・午後の情報番組やワイドショーでも、番組を通じてたくさんの人が彼の挑戦を応援モードで見ている。

 野球でも仕事でも、「好き」と「才能」と「マネー」は、成功に欠くことのできない要素だろう。ただ、彼のチャレンジと生き生きとしたプレーを見ていると、もう一つ大事な要素があることに気づかされる。おそらく、多くの人が大谷翔平のそこに引きつけられているのだ。

 私たちが彼に見ている(感じている)ものは、好きなことに濁りなく向き合う、その「純粋さ」ではないだろうか。そして、それはどうやら米国のファンにも伝わっているようだ。

 =敬称略

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