病状を口にしなかったことが勝因?

 しかし、稀勢の里はなんとここから2番連続で照ノ富士を倒す。

 本割の一番では、痛めた左腕(?)をかばうように左に回って、照ノ富士の体を右胸で受けた。横綱が立ち合いで変化したことへの批判も起こったが、まともにぶつかれないほどのケガだったのだろう。それでも稀勢の里は、足は動くのだから「足で相撲を取ればいい」と思っていたそうだ。押し込んでくる照ノ富士を土俵際で回り込み右手一本で突き落とした。投げ終わったあと稀勢の里は、つま先で軽く動くようにステップを踏んで見せた。まさに足で取った相撲だった。

 20分後の優勝決定戦もミラクルな相撲だった。

 今度はもろ手突きで真っ直ぐに立った稀勢の里だったが、左腕に力が入らないのだろう。脇が甘く、いきなりもろ差しの態勢になられてしまう。この時点で「勝負あった」と思われたが、稀勢の里はまだ諦めていなかった。土俵際まで一気に押し込まれたが、絶体絶命のピンチで放った技は、いままでやったことのない右からの小手投げだった。勝負を焦って浴びせ倒そうとしてきた照ノ富士の重心は高く、稀勢の里の右手一本の投げが見事に決まった。

 初優勝からの連続優勝、新横綱の優勝は貴乃花以来22年ぶり史上8人目だった。優勝インタビューで稀勢の里は、「なにか見えない力を感じた」と涙を浮かべながら語った。

 優勝は15日間戦い続けた結果だが、私はケガを負ってからの稀勢の里の言動が気になっていた。おそらく土俵に上がれないほどのケガをしていたのだろうが、それでも相撲を取れたのは稀勢の里の心のマネジメントにその秘密があったように思えてならない。

 「それは何か?」と言えば、彼が一度も病状を口にしなかったことだ。それが稀勢の里に戦う力を与え、最後まで土俵に上がれた要因ではないかと思っている。

 一部のメディアは、関係者の話として、左の「上腕二頭筋」を痛めたのではないかと報じたが、稀勢の里本人はケガの状態を一切語っていない。その姿勢は優勝が決まった後のインタビューや取材でも貫かれている。

 どこをどうケガして、どう傷んでいるのかを稀勢の里は説明していないのだ。それどころか、病名や病状を詳しく知ろうともしていないのだ。でもだからこそ頑張れたのだろう。