何年前だろうか…。

 作家の伊集院静氏と酒席でご一緒した際に聞いた話が、なぜか強く印象に残っている。それは、若い頃に代表作を書いて、その後なかなか思うような作品が書けなくなった作家のつらさについてだった。

 晩年にもう一度、話題作や注目作品を世に送り出せる作家の幸せ。そのまま次なる秀作を生み出せず、もがき続ける創作活動の厳しさ…。具体的な名前は伏せるが、「作家の置かれた立場もさまざまだ」という執筆に関する苦労と明暗についての話だった。その点、伊集院氏は「恵まれている」と自身を客観的に見つめていた。

 これでも物書きの端くれとして伊集院氏の話は、作家の創作活動とその生涯について、彼の意味するところを言葉通り理解できる気がした。加えて、私の中でその指摘が腑(ふ)に落ちたのは、それがそのままスポーツ選手にも当てはまることだと思ったからだ。

 それゆえに私の記憶にも、この伊集院氏の作家に対する思索が長く留まっているのだろう。

平昌五輪のスピードスケート女子1500mで銀メダルを宅得した高木美帆選手(写真=AP/アフロ)

 平昌五輪を語るのにまったく違う角度からの導入になってしまったが、スピードスケート・高木美帆選手(23歳・日体大助手)の銀メダル(女子1500メートル)とジャンプ・高梨沙羅選手(21歳・クラレ)の銅メダル(女子ノーマルヒル)獲得を見た晩に、ふと伊集院氏の話を思い出した。

 二人の活躍に「良かったな」と素直に思った。