過去の自分を捨てがたい王者の難しさ

 王者がその地位に安穏として挑戦者に足元をすくわれたという話ではない。言いたいことはむしろ逆だ。受けて立つ王者の戦いは難しい。王者になった過去の自分の戦い方を探してしまうからだ。

 そのスタイルがあったからこそチャンピオンになれた。だからどうしてもそこにこだわってしまう。しかし、挑戦する者に振り返る過去(栄冠)はない。守らなければいけない地位もなければ、思い出すスタイルもない。その時の自分自身を特化させることを唯一の武器に恐れることなく挑んでくる。だから、これ以上怖い相手はいない。

 平野も水谷も、王者のプライドを持って堂々と戦おうとしたが、ともに挑戦者の際立った攻撃性とスピードについていくことができなかった。

 この戦い(男女決勝)に教訓を得たのは、どんなことであれ挑戦者の姿勢が持つ強さだ。守りに入った王者(実力者)は、時に劣勢を強いられる。大切なことは、いかなる立場にあっても、自分の良さを最初からどんどん発揮して主導権を握ることだろう。またそうでなければ王者の壁がいつでも立ちはだかってくるのだ。

 男女を通じて史上最年少、14歳(208日)にして日本チャンピオンに輝いた張本は言った。

 「これからは自分の時代にしたい。どんな相手にも負けない実力を身につけたい」

 果たして、張本はジュニアと一般男子シングルスを制し、伊藤は女子ダブルス、混合ダブルス、一般女子シングルスの三冠(史上3人目)を達成した。

 これからは伊藤と張本を王者の難しさが襲うことになるだろう。

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