長期的に企業価値を高める経営の継承とは、どのようなものか──。2016年12月26日号・2017年1月2日号の日経ビジネスの特集「私の経営リレー論 次の次まで考えろ」では、経営者の本音を聞くと同時に、日本の大手企業の経営陣の在職期間および時価総額をベースに、社長の最適な交代タイミングを検証した。
 グローバル展開を進めるなかで、トップにすがる経営から、チームが担う経営へとかじを切ってきた企業の一つがブリヂストンだ。2012年に就任した津谷正明会長兼CEO(最高経営責任者)に、経営リレーについての考えかたを聞いた。(聞き手は藤村広平)  
[つや・まさあき]氏<br />1952年生まれ。76年一橋大学経済学部卒業後、ブリヂストン入社。担当者として米ファイアストン買収に携わるなど国際渉外畑を歩み、2008年に常務執行役員。2011年代表取締役専務執行役員、2012年にCEO(最高経営責任者)就任。 (撮影:尾関裕士、以下同じ)
[つや・まさあき]氏
1952年生まれ。76年一橋大学経済学部卒業後、ブリヂストン入社。担当者として米ファイアストン買収に携わるなど国際渉外畑を歩み、2008年に常務執行役員。2011年代表取締役専務執行役員、2012年にCEO(最高経営責任者)就任。 (撮影:尾関裕士、以下同じ)

経営者の在職期間と会社の持続性の関係について、どうお考えですか。

津谷:重要なポイントだと思います。自分の在職期間中に会社を良くしたいのはもちろんですが、私も永遠に(CEO職を)続けられるわけではない。当社も導入しているストックオプションの付与制度というのは、自分が経営を離れたあとにも責任を持つための仕組みの一つですよね。自分が退任した後も株主であり続けるわけですから。

トップ交代の意義はどんなところにあるのでしょう。

津谷:トップ交代は良いことです。私は若いときから何人もの経営者に仕えてきましたが、交代のたびにそれまでとは違う視点・感覚がもたらされるのを目にしてきた。

 もちろん会社の理念とかDNAとか、変えるべきではない部分もあります。役職に慣れてくれば(意思決定などの)効率も良くなります。しかし、人にはどうしても思い込みがあるし、迷いや、間違いもある。新しいことへのチャンレジはしづらくなるし、同時にそれまでの自分のやりかたを変えるのも難しくなります。

 経営者一人についてだけではなくて「経営チーム」についても同じことがいえます。だからこそチェック&バランスの仕組みを作るわけです。言い換えればガバナンスですね。それでも、どんなにガバナンス体制を整えたとしても、やっぱり長くやりすぎるとマイナス面が目立ってきます。

「経営陣」育成はトップの役割

できるだけ頻繁にトップは交代するべき、と。

津谷:もちろん、代えりゃいいってものでもありません。しかし経営環境がかつてないスピードで変化するなかでは、新しいひとが新しい視点で取り組むことが大切になります。10年、20年後まで正確に見通せるひとなんていません。経営者は神様ではないのです。私の前の経営者もみんなそうでしたし、私も同じです。(市場環境や技術動向など)動きが速いなかでは、次代の経営はバトンを託された新しい人たちが担うべきです。

失礼な話になりますが、津谷CEOがもし今日、交通事故に遭ったとして、それでもブリヂストンは絶対揺らがないよというような仕組みはあるのでしょうか。

津谷:あります。私が倒れて会社がダメになるようなら、それは経営者として失格です。幹部クラスまでを含めた「経営陣」を育てるのは、リーダーの役割そのものです。ブリヂストンだって、次の社長と思われていたひとが病気で亡くなるとか、いろんなことがありました。それでも会社が持続的に成長してこれたのは、不測の事態にも揺るがないチームづくりを進めてきたからです。

経営チームはどのように作るのですか。

津谷:10年ほど前から、執行役員以上の幹部にはサクセッションプラン(後継者育成計画)を作らせています。自分の役職を引き継げる人材として、Aさん、Bさん、Cさんと具体的に名前を挙げるんです。

 自分が仕事を進められなくなったとして、Aさんならすぐに引き継げる、Bさんは1年後なら後継者になれる、Cさんは3~5年後なら……といった具合です。基本的に1年に1回書いてもらっています。

 それぞれ強みや弱みはなにか、どこをどう伸ばすべきかを書いてもらいます。記入後には、私や西海和久COO(最高執行責任者)と面談します。なぜそのひとを選んだのか、ほかの人じゃダメなのか――。徹底的に議論します。

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