こうした3つの能力は、どのように身に着けるのでしょうか。

泉谷:これも方法は3つあります。1つは様々な研修などの「勉強」。次に、色々な仕事をさせて修羅場をくぐらせる「経験」。経験では、現場の風土や能力レベルを見て指示の仕方を変えることも重要でしょう。3つ目は、私は「突然変異」と言っているんですけど、社員に尊敬されて、ああいう風になりたいと思わせる「魅力」ですね。これは教育などとは別に、急に出てくるものだと思います。

 重要なのは、従来の高度経済成長期にあったような、トーナメント型で経営者を作っていくやり方は、もうあり得ないということです。経営環境があまり変化しないならば、過去の経験で経営していけます。しかし、経営環境が目まぐるしく変わる中では、過去の経験が邪魔することもあるわけです。ただ経験を積み上げただけで、応用が利かない人を選ばないように気を付けなければなりません。

自分の“旬”を見誤らずに交代すべし

アサヒGHDは、持ち株会社制に移行する前の2000年度に(前身である)アサヒビールが赤字に転落しましたが、その後15期連続で当期純利益が過去最高を更新しています。最近では海外企業の大型買収にも乗り出しています。

泉谷:この期間の社長は私を含めて4人いますが、それぞれの引き継ぎがうまくいったからだと思います。

 社長交代の際は気を付けないと、リレーでバトンを落とすような「つなぎ」に失敗してしまうことがあります。そうすると、なかなか上に上がれない。当社みたいに連続で上がってきた状態で一回下に落ちると、戻れなくなってしまうという危機感もあります。

 自分が引き継いだときに何を考えていたか。まず、自分の潮目、旬みたいなものを考えておくということでしょうか。業績が下がってから交代するのは無責任ですから、業績がいいうちに、自分が交代する時期を発見しないといけないんです。「まだ交代する必要ない」という人もいるかもしれませんが、最速で走っている時に次に渡すことが大事です。

 もし会社に何かあった時に復帰しないといけないかもしれないので、自分の体力や意欲が残っているうちに渡したという面もあります。ただ、欲があるとできないでしょうね。自分の体力や意欲があるときは社長の職を渡したくなくなりますから。

 それから、周りの社員が後継者を見る目も気にしました。「あの人なら安定して経営してくれる」と思わせるようにするということです。先ほどお話したような、育て方で様々な部門を経験させていたら、周囲は「(社長になるための)帝王学が始まっている」と見ますよね。それで本人が実績を出していけば、周囲からの信頼は高まります。その安心感、安定感が必要だと思います。

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