長男の嫁と長女は歳も近く、お互いの子供も同級生でした。同じ敷地に住んでいるため、親同士以上に子供同士の交流は盛んでした。

 しかし細かないざこざは絶えません。たとえば、長女が開く子供向けのクリスマス会に長男の嫁とその子供だけは呼ばなかったり、子供の声や犬の吠える声がうるさいと文句を言ってきたりするなど、よくあるご近所トラブルは長く続きました。

 そんな中、決定的な出来事が起きました。義理の母の三回忌のときです。親戚一同集まった席で、皆の前であるにもかかわらず長女が長男の嫁を一方的に罵倒したのです。

 長女いわく、「お母さんが突然死んだのも長男の嫁のせいだ」とか「父の財産を長男の嫁が狙っている」などです。長男の嫁からすれば、嫁いだ家のために良かれと思ってやってきたことばかりです。義理の親の了解を得てやったことにもかかわらず、義理の姉から難癖を付けられました。

 親戚一同が集まる場でけなされた長男の嫁。嫁いでから長年耐えてきましたが、我慢の限界を超えてしまったのかもしれません。

長男の嫁が財産の3分の1を相続

 その後、長い介護状態の末、義理の父も息を引き取ります。父の遺産分割や相続手続きをするため長男や長女が集まった時です。「公正証書遺言」の内容をチェックしてみると、驚くべきことが書いてありました。

 そもそも長女からすれば、遺言があったこと自体が寝耳に水です。しかも、戸籍謄本を見てみると、知らぬ間に長男の嫁が父と養子縁組をしており、長男の嫁が法定相続人の1人になっているではありませんか。

 生前の父は自分の余命が長くないことを認識していた時に、長男の嫁を養子として法定相続人に加え、さらに公証人を自宅に呼んで公正証書遺言を作ったのです。

 長男の嫁としては長年の献身が実ったとも言えますが、長女としたら面白くありません。長男の嫁が養子に入っていなければ、法定相続分は長男と長女は2分の1ずつでした。ところが長男の嫁が養子になったので、法定相続分は長男、長女、長男の嫁の3人となり、遺産は三分割することになりました。

 しかも遺言には、その旨がしっかりと明記されていました。長女は泣く泣くその遺言を受け入れるしかありません。しかしそのような遺言によって遺産分割は決着が簡単につきましたが、遺族のわだかまりは続きます。

 ちなみに養子縁組というのは、一般的に思われている以上に簡単です。婚姻届を出すのと同じように、役所に用紙を一枚提出すれば成立します。しかもこのケースでは、父の養子に長男の嫁がなるのに、当然のことながら長女の許可は要りません。よって人知れず、父と長男、そして長男の嫁の間だけで養子縁組を進めることができるのです。

 ご存じの方もいらっしゃると思いますが、養子縁組は節税の王道です。

 たとえば3億円で法定相続人が2人の場合、相続税は6920万円もかかります(今回は旧税率のため5800万円でした)。このケースで1人養子縁組すると法定相続人は3人になるので、相続税は5460万円に減ります(旧税率では4500万円)。なんと養子縁組の紙切れ一枚で1460万円もの相続税を節約できるのです。割合にして、21%もの相続税額ダウンです。

 よって、税金のことだけを考えれば、この選択は大正解です。一方で、「争族(あらそうぞく)」という火を付けてしまったのかもしれませんが。