多額の現金を目の前にすると人は変わる

 今回の揉め事も前回に引き続き、やはり遺言を書いておくべき事案だったと思います。さらに「遺言執行者」を専門家に依頼しておくべきものだったと考えます。

 遺言執行者とは、遺言に書かれている内容を執行する人です。遺言を書くときに必ず遺言執行者を指定しなければならないわけではありません。ですので遺言を書いていたとしても遺言執行者を指定していないケースは多々あります。

 とはいえ、遺言執行者は相続開始後の手続きを「単独で行う権限」がありますので、他の相続人による財産の処分、遺産の持ち逃げ等を阻止することができるのです。

 今回のようなトラブルを防ぐために、母は生前に遺言で「財産としてキャリーバッグにある現金4000万円、銀行預金500万円、そしてその他の財産はすべて長男と次男に相続させる」と書いた上で、弁護士など専門家を遺言執行者として指定しておき、かつ遺言執行者が速やかにその職務を遂行できる状態にしておけば、相当程度のリスクヘッジになったはずなのです。

 とくに被相続人である母は長く闘病生活を強いられており、遺言を書く時間はあったと思われます。字を書くことができれば「自筆証書遺言」という形で書くべきでしたし、字が書けない場合でも、公証役場で公正証書遺言を作れば、自ら字を書く必要もありません。とくに、公正証書遺言は公証人が自宅等に出張してくれますし、病床に臥せっていたとしても書くことが可能です。

 相続で発生した多額の現金は、周辺の人たちの目には「臨時収入」と映るのでしょう。うまいことすれば多額の臨時収入が得られるとなると、人間は時として「予想外の行動」を起こすこともあるのです。

 基本的には性善説で行動したいものですが、あまりにも脇が甘いと大きな損失を被ることもあります。

 親族だからと言って「絶対安心」ではないことを心の片隅に置いておきたいところです。また、こういった揉め事を避けるためにも、生前に遺言を遺すとともに遺言執行者を設定し、かつ、遺言執行者が速やかにその職務を遂行できる状態にしておくことはとても重要なことだと思います。

■変更履歴
記事掲載当初、本文中で「遺言執行人」としていましたが、「遺言執行者」の間違いでした。お詫びして訂正いたします。本文は修正済みです [2017/12/28 15:00]