「3.11」で人生が変わってしまった兄

 ところがです。その数年後、実際に姉が亡くなると兄は「オレも相続人なので姉の財産を半分よこせ」と前言を撤回してきたのです。そんな兄の心変わりには理由がありました。

 姉が亡くなる数年前に個人事業を止め、引退したのですが、その時店舗を売却して残ったお金が約5000万円ありました。それを退職金代わりに受け取った兄は東京電力の株に全額投資したのでした。

 当時は電力会社の株は値動きも安定し、配当も一定額もらえるので退職金の運用先としてとても人気がありました。兄は5000万円すべてを東京電力株に投入したのですが、当時の東京電力は1株当たり60~70円の配当金を株主に支払っていました。兄の場合、年間でおよそ75万円の配当収入がある計算で、年金も含めれば十分に生活を送れるはずでした。

 ところが2011年に東日本大震災が起きて東京電力株は暴落。2011年度以降は配当金もゼロ円となってしまいました。これでは、兄夫婦の老後の算段は狂ってしまいます。そんな時に姉の相続が起きたのでした。だからこそ、お金に困った兄は姉の相続財産に期待したというわけです。

 今回のケースは、遺言を姉が用意しておけば弟にすべての財産を渡すことができたはずでした。なぜなら、兄に遺留分はありません。遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に認められる、最低限の遺産取得分のことです。親からの相続と異なり、兄弟姉妹間の相続に遺留分はないのです。

 しかしながら、遺言がない以上、兄にも法定相続分が認められるため、兄にも姉の財産を半分相続させることで決着を付けることになりました。

 ただし、兄と弟の関係性以上に、兄夫婦、弟夫婦の関係性が非常に悪くなり、姉の相続以降、姉の法要は別々に執り行うことになってしまいました。金額以上に、兄弟間の仲まで険悪になってしまったのです。

 今回のケースは、もし姉が遺言を書いておれば、このように金銭的にも感情的にももつれることはなかったでしょう。

 姉が遺言に「弟に介護の面倒を見てもらったので自宅や現金はすべて弟に相続させたい、兄は東京にはおらず、大阪にいたわけだし、本人も了承していたので財産をもらえないことに納得してくださいね」というような内容です。

 本来ならば遺留分は遺言よりも優先されるものですが、兄弟間の相続に関して言えば先ほど申し上げた通り、遺留分はありません。よって今回は遺言を書くことで揉め事が避けられたのではないか、と思われるケースです。

 なお、上記のように遺言に関して「なぜ誰に財産を遺して、誰に財産を遺さないのか、遺言作成者の想い」を書くべきです。遺言には通常最後に「付言事項」として想いを書くことができるのです。とくに財産をもらえない人、多めにもらえる人に関してはその理由を付言事項として書くべきだと思います。