はじめまして。私は相続を生業としている弁護士や税理士等の専門家で組織された協会、相続終活専門士協会の代表理事を務める江幡吉昭と申します。本連載では、我々が幾多の相続案件の中で経験した事例を何回かに渡ってご紹介したいと思っています。

 伝えたいことはただ一つ。どんな仲が良い家族でも相続争いに巻き込まれると「争族(あらそうぞく)」になってしまうということです。そこに財産の多寡は関係なく、お金があろうとなかろうと揉めるものは揉めるのです。そうならないために何が必要なのでしょうか?具体的な事例を基に、考えてみたいと思います。

 第一回は「相続人は本来なら全財産を相続できたはずなのに、相続人の心変わりによって当初とは全く異なる遺産相続になってしまった…」という話です。結論としては、「遺言を書いておけば避けられた争い」です。それでは見てみましょう。

人間は置かれた状況によって心理状態が変わる。現役時代にどんなに羽振りが良くても、引退後に態度が豹変する人は少なくない
  • ●登場人物(年齢は相続発生時、被相続人とは亡くなった人)
    • 被相続人 姉81歳(元私立有名大学教授、東京在住)
    • 相続人① 兄71歳(元個人事業主、大阪在住)
    • 相続人② 弟70歳(元大手金融機関サラリーマン、定年退職者、東京在住)
  • ●財産 現預金6000万円、都内に戸建自宅約4000万円、合計1億円
  • ●生前の合意では兄0:弟100(兄0円、弟現預金6000万円、自宅4000万円)
  • ●実際の相続発生後の分割は兄50:弟50(兄:現預金5000万円、弟:自宅4000万円+現預金1000万円)

 被相続人は長く大学の教授を務めた学者であり、生涯未婚を貫き、子供もいなかったため、比較的現預金が残っていたケースです。

 姉は10年近くに渡り長く介護状態にあり、姉の面倒は同居の弟夫婦が見てきました。その様子を見ていた兄は常々、「姉の面倒をオレの代わりに見てくれて助かってるよ。だから、姉の財産は全部お前が相続すればいいよ。オレは必要ないよ」と弟に言っていました。というのは、兄と姉は学生時代から仲が悪く、とくに兄が現役の時はフランチャイズで何店舗もお店を経営しており、羽振りの良かった兄としては姉の財産を相続すること自体、プライドが許さなかったのでしょう。

 お金に困ってなかったからこその余裕のある発言でした。