母の相続でもハンコ代を漠然と期待したが

 長男と母は父から引き継いだ資産のうち、株は運用に失敗。大きな含み損となりました。アパートは築年数が経過しても修繕などがおろそかになりました。その分、入居者が集まらなくなり、家賃を下げて空室を埋めました。このため、収益性が悪化。借り入れを返済すると手許にお金が残らなくなりました。父の遺した現金のほとんどはほかの3人にハンコ代として渡していました。にもかかわらず、生活レベルは父の死後も同じままでした。

 一方、ほかの3人は父が亡くなったとき、アパートや株は兄が母と引き継いだため、兄はお金を持っていると思っています。このため、母の相続でも1000万円前後をハンコ代としてもらえるだろう、と漠然と期待しました。

 母は懇意にしている金融機関に相談し、公正証書遺言を残し、「長男を遺言執行者」とし、「全財産を長男に相続させる」としていました。

 ほかの3人はこれに対し、「父は長子相続だとかつて言っていたから、財産が全部、長男にわたるのは仕方ない。それでもハンコ代が1円もないなんておかしいだろう」と怒りました。これに対して、兄は「資産はあるが、お金はない」と伝えましたが、3人は納得しませんでした。

 この連載で頻繁に申し上げていますが、遺言があれば遺産分割協議書を相続人の間でまとめる必要は本来ありません。このため、遺留分について遺産分割協議で合意するような場合を除いて、ほかの3人は遺産分割についてハンコを押すタイミング自体がありません。